「プラザ合意2.0」で円安是正というまさかの展開 円をはじめユーロや人民元にも悪い話ではない

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ちなみにメキシコのほか、ベトナムの次に対米貿易黒字が大きいカナダ(723億ドル)といった旧NAFTA諸国は、アメリカの自動車会社が工場を構え、アメリカに輸出しているという実情もある。

トランプ氏は第2次政権においてメキシコとカナダからの輸入品すべてに25%の関税を課すと述べているが、これは自国企業を圧迫する行為でもあり、要は「アメリカ国内で作れ」という意思表示と考えられる。

なお、カナダの次に対米貿易黒字が大きい国が日本(719億ドル)である。過去の本欄でも議論したように(「円安批判」するトランプ氏に伝えたい日本の実情)、日本はすでに多額の対米投資を実施済みだが、やはり因縁はつけられやすいだろう。

結局アメリカは、対中国でも、対主要国でも大きな貿易赤字を抱えている。そのため第2次トランプ政権が「プラザ合意2.0」に踏み込むとした場合、対人民元でのドル高是正であれ、対主要通貨でのドル高是正であれ、相応に理屈は立つ。

政治的には対人民元を前面に押し出したほうがわかりやすいが、アメリカ第一主義と整合的にドル安誘導を企図するならばシンプルに「アメリカの過剰な貿易赤字を是正する」という大義と共に国際協調を強弁するかもしれない。上述したように、アメリカの求め方はどうあれ、通貨安の是正は日本やユーロ圏にとって悪い話ではない。

もちろん、こうした「プラザ合意2.0」の想定はメインシナリオではない。しかし、この論点は第2次トランプ政権だからこそ看過できないリスクシナリオの1つとして留意したいものだ。

円高忌避から円安是正が歓迎される雰囲気に変わった

実際、「半世紀ぶりの安値」までの押し下げられた円の実質実効相場が短期間で大きく切り上がるとすれば、そのような力業くらいしか思いつかない。通貨高(円高)を社会全体で忌避していた過去であれば受け入れの難しかった論点だが、現在は政治・経済的にも円安是正は歓迎されやすい雰囲気はある。

もっとも、アメリカが保護主義に訴えかけながら自国通貨の切り下げを先導した場合、「強いドル」への政治的意思には疑義が生じる。

実際、トランプ氏はドルの基軸通貨性にチャレンジするような動きを牽制する意図を明示している。「BRICS共通通貨を検討するような動きがあれば、追加関税100%」と述べたことはその象徴であった。

「ドル高は嫌だが、基軸通貨の座を譲るのも嫌だ」というのは矛盾した主張でもあり、総合的に考えれば、やはり基軸通貨性を担保すべく「強いドル」を甘受していくというのがメインシナリオではある。

アメリカが自ら「弱いドル」を志向すれば、それが中国にとっては人民元国際化のための橋頭堡になる可能性は確かにあるだろう。現在の政治・経済・金融情勢を踏まえると、アメリカが自発的にドル安を誘導しようとすることに関し、日本、ユーロ圏、そして中国がそれほど反対しない環境は整っている。この点は知っておいてもよい話であろう。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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