「長期停滞からの脱却」は本当か?実質賃金の現実 海外に漏れ出す付加価値、労働への分配も高まらず
ここでは、あまりなじみのない形で名目労働所得を単価と数量に分解してみよう。
単価を求める際、ここまで見てきた「就業者1人当たり」や「労働時間1時間当たり」に替えて、「実質GDP1単位当たり」を用いる。
若干ややこしい議論になるが、実質GDPとは、「国内で産み出された」実質付加価値に相当する。一方、名目GDPは、「国内にとどまった」名目付加価値である。なお、「国内にとどまった」実質付加価値は、実質GDIと呼ばれている。
したがって、名目GDPを実質GDPで割ったGDPデフレーターは、実質GDP1単位当たりの「国内にとどまった」名目付加価値に対応する。「国内にとどまった」名目付加価値である名目GDPは以下のように表せる。
実質GDP1単位当たりで実質賃金を算出する
今、「国内にとどまった」名目付加価値から名目労働所得に分配される割合を労働分配率と呼ぶことにしよう。すると名目労働所得は以下のように表せる。
労働分配率が一定であるとすると、「国内にとどまった」名目付加価値の動向と名目労働所得の動向はパラレルに動く。
こうして見てくると、労働分配率一定のもとでは、右辺のカッコ[]の中にあるGDPデフレーター(実質GDP1単位当たりの名目労働所得)は「名目労働所得の単価」(名目賃金)、同じく実質GDPは「名目労働所得の数量」にそれぞれ対応する。
名目賃金(名目労働所得の単価)に相当するGDPデフレーターを、消費者物価指数に相当する家計消費デフレーターで除したデフレーター比率は、こうして実質賃金(実質GDP1単位当たりの実質労働所得)に対応するわけである。
ここまで見てきてようやく、実質賃金と交易条件の対応が浮かび上がってくる。
実質賃金に相当するデフレーター比率を見てみると、分子であるGDPデフレーター(実質GDP1単位当たりの名目付加価値)は、交易条件が悪化すると名目付加価値が海外に漏出して伸び悩む一方、分母である家計消費デフレーターは、輸入物価の上昇を直接反映して上昇する。その結果、デフレーター比率は交易条件の悪化とともに低下していく。
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