「長期停滞からの脱却」は本当か?実質賃金の現実 海外に漏れ出す付加価値、労働への分配も高まらず
日本経済の交易条件は、21世紀になって著しく悪化してきたが、新型コロナ禍において国際的な物価上昇が進行していくなかでいっそう悪化した。
図では、日本銀行が企業物価統計に報告している円建てで見た輸出価格指数と輸入価格指数、そして、前者を後者で除した交易条件比率が月次で描かれている。
交易条件は、2020年半ばに急激に改善したものの、2020年秋から悪化してきた。こうした交易条件の動向は、先ほど見てきた実質賃金の回復とその頓挫に若干先行していた。
もう少し詳しく見てみると、2020年末になって輸入価格が急激に上昇したにもかかわらず、輸出価格への転嫁がかんばしくなかった。その結果、交易条件比率は、2020年秋から2022年半ばの期間、1.05から0.7へと大きく低下した。
2023年半ばにかけて、交易条件比率が若干上昇したのは、輸入コストを積極的に輸出価格に転嫁した結果ではなく、輸入価格が低下しても円建てで輸出価格を据え置いてきたからである。
交易条件比率は、その後、低い水準のところで横ばいで推移してきた。同比率が横ばいで推移してきたのは、円建ての輸入価格の上昇が主として円安によるものであり、輸出先通貨建て(たとえば、米ドル建て)の輸出価格を据え置いてきたからである。
逆にいうと、円安にもかかわらず、現地での販売価格を引き下げなかった。この間、円安にもかかわらず、輸出数量が伸び悩んだ背景でもあった。
交易条件が悪化すると、なぜ実質賃金が低迷するのか
こうした交易条件の悪化が、実質賃金の低迷をもたらすマクロ経済学的なメカニズムを簡単に説明してみよう。
まず準備作業として、国内にとどまる名目付加価値の総額は、名目労働所得と名目資本所得(企業収益や金融所得)に分解されることを押さえておく。
次に、国全体の名目労働所得を、単価(名目賃金)と数量に分けて考えていこう。
たとえば、名目賃金を「1時間当たりの名目労働所得」とすると、名目労働所得は、単価に相当する名目賃金(労働時間1時間当たり)と数量に対応する総労働時間数の積となる。
また、名目賃金を「就業者1人当たりの名目労働所得」とすると、名目労働所得は、単価に相当する名目賃金(1人当たり)と数量に対応する総就業者数の積となる。
こうして求められた名目賃金を消費者物価で割ったものが実質賃金となる。
たとえば毎勤統計で示される実質賃金は、就業者1人当たりの名目賃金を消費者物価で割ったものにあたる。
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