保健室こそICT活用、出欠連絡・健康診断を効率化し「子どもの本音」も引き出す 他教員の負担も軽減させて養護教諭の地位向上

(写真は阿部氏提供)

(写真は阿部氏提供)
さらに、研究授業などで保健室を留守にする際は、保健室の入り口に絆創膏・体温計・マスクを置き、その様子がカメラに映る位置にタブレットをセットして(Google)Meetをつなぎ、自身の端末で映像と音声を確認できるようにしているという。
「保健室前に来た児童とMeetで話をして、軽症なら『そこの絆創膏を使ってね』で済みますし、急ぎの対応が必要ならすぐに保健室に戻ることができます。体力測定のシャトルランでは児童が体調不良を訴えることが多いので、体育館と保健室をMeetでつないで状況を見守るようにしています」
ICT導入で、朝9時には全校の欠席状況が集計可能に
保健室でのICT活用に慣れてきた阿部氏は、全校児童の健康観察にもICT導入を提案。それまでは、担任が欠席状況を記入した健康観察板を、係の児童が保健室に届け、それを養護教諭が集計して管理職に報告するという流れだった。しかし、健康観察板が届かないクラスがあったり、保健室の来室者対応で集計が遅れたりすると、報告が11時になることもあり、学級閉鎖などの判断が遅れるおそれもあったため、ICTを活用して作業の効率化を図ったという。
「Classroomを使って各クラスの欠席状況などのデータをFormsで集め、スプレッドシートにまとめるようにしたところ、朝9時頃には集計が終わるようになりました。その後は教育機関向け連絡網サービスのアプリの導入を提案し、アプリ経由で欠席連絡を受け付ける仕組みを整えました」

アプリの導入以前は毎朝10~20件程度の欠席連絡の電話がかかってきていたため、電話対応が不要になったことは他の教員にも好評だったという。欠席した児童のフォローも、緊急度の低い内容はメールを活用し、重要なことのみ電話で連絡する体制にしたことで、教員の業務負担を軽減できたそうだ。
ICTの導入にあたっては個人情報の扱いへの配慮が必要になるが、阿部氏は次のようにアドバイスする。
「アプリ自体にセキュリティ対策がなされていても、先生方が扱いに慣れていないと、個人情報が含まれるデータを全員が閲覧できる設定にしてしまうなどのミスが起こりがちです。まずは個人情報を含まない範囲でICT活用を始めて先生方のスキルアップを図り、慣れてきたところで個人情報を含む範囲へと徐々に広げていくのがいいのではないでしょうか」
不登校や特別な支援を必要とする子どもたちのサポートにも
特別な支援を必要とする子どもたちに対しても、ICTは重要な役割を果たすと阿部氏は話す。
「話すのが苦手な子が泣いてしまった時、JamboardにSNSのような画面を作ってテキストでやり取りを重ね、その理由を教えてもらえたことがあります。ICTを活用して自分の気持ちをアウトプットする経験ができれば、その子はいずれ話し言葉でも伝えられるようになるかもしれません。外国籍の児童とも、翻訳アプリを使えば意思疎通がしやすくなります」
阿部氏は現在、不登校の子どもたちの支援策の1つとして、アバターを通じて会話ができるメタバースの活用の準備も進めているという。
「アバターの動かし方を知るために不登校の児童が学校まで来てくれたこともあり、子どもたちの本音とつながるツールとして、メタバースの可能性は大きいと考えています。不登校児童数が最多となっている今、これまでICT活用に積極的ではなかった養護教諭が新しい発想でICTを使いこなしていけば、パラダイムシフトを起こせる可能性も十分あるはずです」