高校時代の諸沢さんについて、広報室長兼執行役員の今村弥生さんは、「当時から評価も本人のモチベーションも高かった。非常に珍しいケースですが、高校生のときから県外も含む他店に出張し、高校生や大学生を教える仕事も任されていました。当社の全員が知っているような高校生でしたね」と話す。
教育係を担う中で、人材を育成する力も磨かれていったようだ。後輩を指導する際に意識していることについて、諸沢さんは次のように語る。
「ポットの向きが間違っていた場合、『何かおかしいところがあります。どーこだ?』と、まず自分で気づいてもらうようにしてからその人の意図を聞くようにしています。その人にも何か意図があってやったことかもしれないので、まずは全否定しないで話を聞くことが大切だと思っています。また、指導に当たっては、一方的に粗探しをするのではなく、私も何か学ぼう、何かを持って帰ろうという点を意識してきました。当時からよい取り組みがあれば他店の学生にシェアしたり、交流の機会をつくってきたりしましたが、今後はもっと店舗を越えた形でそうした仕組みをつくれないかと考えているところです」
ボランティアで得た気づき、突然の「次期社長の打診」
そんな諸沢さんは高校卒業後、アルバイトを続けながら、いったん募金活動を主体としたボランティアの道に進んでいる。
「大学進学も考えたのですが、とくに学びたいことがなかったんです。しっかりと目的を持って行くべきだと思っていたので、何となく大学生になるのはお金を出してくれる親にも申し訳ないし、もったいないなと。もともと私は人のために何かしたいと思っていましたので、だったら今ボランティアに挑戦してしまおうと思ったんです」
人のために何かしたいと思うようになったのは、母親の影響が大きいという。あるとき家族で出かけたときのこと。母親が突然、前方へ走り出した。何をするのかと思ったら、重たい荷物を持ったお年寄りに駆け寄り、荷物を持って一緒に階段を上がっていった。幼い頃からそうした母親の姿や、誰かのために動く人に感銘を受けていたという。
しかし、やってみてわかったことだが、募金活動は支援する相手の顔が見えないものだった。やはり自分は直接言葉を交わしながら、人のために働き、人が成長する姿を見ていきたい――そんな思いが募った。
「結果として、自分はどのような形で人のためになりたいかが明確になり、ボランティアは半年ほどで辞め、ココイチの仕事に本腰を入れるようになったのです」と、諸沢さんは振り返る。
諸沢さんはその後、2021年には、ココイチで最高位の接客スペシャリスト資格「ココスペ『スター』」を獲得。実店舗で覆面調査のような審査がある、現在でも全国で31名しかいない超難関の資格だといい、諸沢さんは当時、全国で16人目かつ最年少で獲得した。

驚くことに、そのスター資格の祝いの席で、突然会社のトップから次期社長を打診されたそうだ。「自分が社長になるとは思っていなかったし、なろうと思ったこともなかった」(諸沢さん)が、チャンスがやってきたのなら挑戦したいと思い、すぐに快諾したという。
「大学進学or就職」の現状、若者に「いろんな選択肢を」
しかし、社長業である。二つ返事で引き受けてしまう度胸や挑戦心はどこで育まれたのだろうか。
「小さい頃から意欲はすごくあって、負けず嫌いな性格ではありましたね。例えば、運動は苦手なのですが、できるようになりたいし楽しみたいと思って、中学時代はバスケ部に入りました。結局レギュラーにはなれず、声出し担当だったのですが、それが今の接客に生きています。人生にムダなことは何もないんです!」と、笑う。
そうした前向きな姿勢は、「母の影響が大きいのかもしれません」と、諸沢さん。つねにポジティブな声かけをしてくれた。例えば、学校のテストの点数が悪いときも、「でも前より2点も上がったじゃない、えらい!」と褒めてくれたそうだ。「勉強しなさい」と言われたこともない。