発達障害の子育てを通じ、情報学研究者の大学教授が痛感した「普通の呪縛」 大学進学は本当に最適解か、自信喪失の恐れも

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もう一つ、岡嶋氏が課題を感じていることがある。それは発達障害の子どもたちの行く末、キャリアパスの選択肢のなさだ。大学の出口となる就職活動は、学生生活以上にコミュニケーション能力が重視され、発達障害の学生にとっては非常に厳しいものになる。大卒資格があることで、障害者雇用の対象外になってしまうケースもあると言う。

また、特別支援学級で学ぶ場合、教科学習はどうしても国語や算数に偏りがちだ。しかし実際には、理科や社会科が大好きな子どもも多くいる。学びを楽しむ力があるにもかかわらず、高度な教育を受けるための選択肢はやはり少ない。

岡嶋氏は、近年拡充が進む「就業技術科」や「職能開発科」のような学びのあり方に期待を寄せている。これは飲食店や清掃業など、実際の業務で役立つスキルを身に付けることができるもので、現在は2科合わせて、東京都内の12の特別支援学校に設置されている。

「発達障害の子どもは年齢に対して幼いことも多いので、中学校卒業後に、じっくり社会に出る訓練ができる機会があるのはうれしい。とてもいい仕組みで、高校の3年間だけではもったいないほどだと思います。あと2年ぐらいプラスして、歯ごたえのある学習なども経験できるようになったらもっといいですね」

発達障害の子どもは「教室の苦しさを知らせるカナリア」

小学校から大学まで、教育の場を内側からも外側からも見つめてきた岡嶋氏は、その閉鎖性の強さに疑問を抱いている。外部からの手助けや変革を許さない風潮があり、新しい試みにも消極的だ。だがコロナ禍で、その牙城が否応なしに崩された部分がある。

「リモート授業などが導入されてやりやすくなったという声は、発達に特性を持つ多くの子どもから聞きました。オンデマンド型なら自分のペースで繰り返し見ることができ、聞き逃すこともなくなる。また、生身で向き合うより、アバターやテキストによるコミュニケーションのほうが気軽だという人は多いでしょう。定型発達の人にとってもメリットがあったはずです」

デジタルで救われた人がいる一方で、インターネットやバーチャルの世界でも、多様性は確保されていない。SNSは岡嶋氏の専門分野でもあるが、自分と違う他者を認めることは、「心理コストが高すぎる」のだと同氏は言う。異なる正しさがぶつかり合い、目立った人が炎上して「普通」からはじき出されるところを、私たちは日常的に目にするようになった。多数派に交じる安心感はこうしたところからも生まれ、強化されるのかもしれない。

「僕は今の日本は、発達障害であるか否かにかかわらず、等しく人があまり尊重されていないと思います。そして、問題のしわよせはまず弱いところに表れます。学校にフォーカスしたとき、発達障害の子どもたちは、教室の息苦しさを知らせるカナリアのような存在だと言えるでしょう」

強すぎるマジョリティー志向と、レベルが上がり続ける「普通」との間で苦しんでいるのは、定型発達の子どもも、多くの大人も同じではないだろうか。

(文:鈴木絢子、注記のない写真:Graphs / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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