不登校経験者8割の立花高校、志願者殺到の理由は「ぬるい学校」の真意 目指すは「学校破壊」、自由度高める意義とは

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「例えば本校では、授業に出ない選択も認められますが、休んで出席日数が足りなくなったらその結果を背負うのは生徒さんだと考えています。つまり“ぬるい学校”と言ったのは、甘い学校というわけではなく、自由度が高い学校だということ。そんな本校の雰囲気に憧れて入学を希望する子が多いのですが、それだけ今の学校は圧が強いということではないでしょうか」

生徒の自主性と自立に寄り添う「伴走型支援」

齋藤氏は、全国的に不登校が増え続けて社会問題化している状況について、「不登校が増えたと騒ぐのは、子どもたちに問題があると言っているのと同じ」だと指摘する。

「最も重要なのは学校を居心地よくすること。文科省が示す不登校対策『COCOLOプラン』でも『みんなが安心して学べる場所にする』ことが盛り込まれ、少しずつ変わってきているのは感じますが、このマインドこそが最重要として掲げられるべきだと思います」

とくに児童生徒を学校に戻すことが大前提だった従来の不登校対策について、「避難所に逃げてきた子を被災地に戻すようなもの」と齋藤氏は表現する。被災地も人が住める状況になっていなければ戻れないように、「学校を心地よく整えなければ子どもたちは戻れない」と同校では考えている。

「これまで多くの学校では『1人でいる子に手を差し伸べて引き上げる』『引きこもっている子の手を引っ張って学校に来させる』といった介入型支援が行われてきました。しかし、介入型支援は『あの子は俺がこう声をかけて回復したよ』といった具合に生徒さんの頑張りが教員の自己満足にすり替わりやすい。生徒さんも『あの先生じゃないとだめ』と依存してしまいますし、逆にその教員と噛み合わない生徒さんにとっては地獄です」

そのため同校では、生徒の自主性と自立を大切にする「伴走型支援」を目指しているという。

「手を差し伸べるのではなく、生徒さんが立ち上がりたいと思ったときに掴める手がそこにあるかどうか。そこにとことんこだわっています。『どうしたと?』から入って『どうしたいと?』と聞き、『先生はどうしたらいいと?』と問いかけるようにしています」

職員室は生徒たちの動線の中にあり(左)、生徒の出入りは自由。昼休みもにぎわっている(右)

しかし、そうした伴走型支援は簡単なものではないだろう。教員にとって苦しい面もあるのではないか。とくに新しく赴任してきた教員にはいかにして同校のやり方を伝えていくのか。

「おっしゃるとおり、先生方の葛藤や大変さは相当なものだと思います。私たちが受けたことのない教育をやっているので、『怒鳴ればうまくいくのでは』と考えてしまうこともあるでしょう。しかし、最低限のことを伝え、私が日々思うところなどを毎朝Slackで共有していますが、意思統一を図るようなことはしていません。共通理解という名の下に先生の個性を均一化すれば、従来型の教育スタイルと変わらなくなってしまいますから。大人が思想的に統一されるのは危険で、『待って、それは違うんじゃない?』と言えることが重要だと思っています。そうした中で醸成される職員室の柔らかい雰囲気を私は何よりも信頼しており、新任の先生にもその雰囲気に自然な形で染まっていってくださればと考えています」

福祉事業所やフリースクールも設置、当たり前を変えていく

生徒の自主性や自立を大切にする同校は、卒業生の将来を見据えた取り組みも行っている。

「進路としては大学や専門学校への進学あるいは就職があり進路指導自体も他校となんら変わりませんが、知的障害や発達障害のある生徒さんの中には就労支援施設を選ぶ子も多いです。卒業して社会に出るまでもう少し準備を要する子のための支援も行っています」

具体的には、パイルアップたちばなという株式会社を設立して子会社化し、就労継続支援A型事業所として校内の学食「ママズカフェ」を運営している。卒業生は同社と雇用契約を結び、調理、接客、校舎内外の清掃などを担う。このように卒業後までシームレスに就労支援を行う私立高は非常に珍しい。

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