教育格差広がる日本と何が違う?授業料無料だけではないフランスの学び保障 受験のない国「その人らしさの開花」目指す価値
学校の医療チームや学校ソーシャルワーカー、学校カウンセラーなどの学校保健政策の費用は、国全体で年間13億1000万ユーロ(2030億50000万円)。子ども1人当たりに国がかける教育費は、小学生1人当たり年間7910ユーロ(122万6050円)、中高生で10770ユーロ(166万9350円)である。また、私立校も多くは公認校で、教育省の教育プログラムに沿うことを条件に教員の給料を国が支払うので、家庭の持ち出し分はそこまで高くない。
フランスは「国が子どもを育てるのを、親が協力する」と揶揄されるほど教育における国の存在感が大きいが、それは子どもの育ちを保障しているということでもある。
つまり、学校が子どもの学びを保障するので塾に行くという文化がないのだ。その代わり学校の勉強は忙しく、勉強させすぎているという批判はある。小学1年生で週にフランス語10時間、算数5時間、外国語1時間半、体育3時間、アート2時間、市民教育2時間半の合計24時間あり、勉強の時間が日本より多い。中高生はもっと勉強が厳しくなるため、フランス人からはなぜ日本では部活をする時間があるのかと不思議がられる。
大学院まで原則「授業料なし」「受験なし」
大学や大学院も、原則として授業料が無料だ(※3)。いわゆるエリートを養成するグランゼコールなど一部の高等教育の進学先を除き、各校個別の入試もない。一方、中学と高校で卒業資格を得るための試験があり、両方とも合格率は9割ほどだが、主に普段の学校の成績で進路が決まるので、日本のような塾通いや受験戦争は存在しない。卒業資格が得られない場合、1年留年して受け直すか、職業資格コースなどに進む。
※3 2019年秋以降、EU外の学生については有料だが特別措置あり
大学の大半は国立大学であり、国のオンラインプラットフォームに希望の大学と学部を複数登録する。主に在学中の成績を基に、大学が条件に合う人に入学申し込み許可を出す形で合否が決まる。
ただし、受験なしで進学できる代わり、入学後のパフォーマンスが問われる。筆者はフランスの大学院に通ったが、学科で2年生に進級できた学生は6分の1のみ。他方、年次を修了できれば次年度は違う学科への進級も可能だ。筆者は「学部時代は、1年目は歴史学、2年目は哲学、3年目は政治学を学んだ」という学生たちと出会い、そんな学び方もあるのかと目から鱗が落ち、羨ましく感じた。
このように塾代、受験費用、学費、入学金などの家庭の負担がなく、経済的な理由が高等教育へのアクセスを狭めないような仕組みを用意し、「教育によって成功への平等な機会がある」よう取り組んでいるフランスだが、課題はある。同じ資格があっても同じ就職先が保障されるわけではない。例えば履歴書の名前から北アフリカ出身者と思われる人は、フランス出身の名前より31.5%も面接の連絡を受ける機会が少ないという調査報告もある。貧困層から富裕層への移動は容易ではなく、不平等な社会であることは大きな課題だ。
それでも筆者は、すべての人に潜在力があると考え、その力を引き出すことが、子どもに関わる専門職の役割とされているフランスの方針は学ぶべきところが多いと思っている。