多くの生徒がイギリスの「ラッセル・グループ大学」へ進学

18歳未満の子どもが単身でイギリスに長期留学する場合、ガーディアンを任命しなければならないことをご存じだろうか。ガーディアンとは、イギリスで保護者の代わりに留学生を見守る身元引受人のことだ。ビザの申請時には、ガーディアンを記載しなければならず、ガーディアンがいなければビザはおりない。

ガーディアンは現地の知り合いに依頼することも可能だが、学校の近くに住む必要があったり、留学生が在学中は海外渡航禁止など厳格な決まりがあるため、専門の企業に任せるのが一般的だ。

ピッパズ・ガーディアンズは、こうした留学生のサポートを行うガーディアンシップ業と、ボーディングスクールに入学を希望する家庭に対してコンサルティング業を提供するイギリスの企業だ。

全英約120のボーディングスクールとネットワークのある同社は11月、「ブリティッシュ・ボーディングスクール・フェア・ジャパン2023」というイベントを開催した。ピッパズ・ガーディアンズ 代表のベン・ヒューズ氏は、その理由についてこう話す。

ベン・ヒューズ(Ben Hughes)
ピッパズ・ガーディアンズ 代表
チェルトナム・カレッジ卒業。25年にわたり留学生のケアとサポートを担うガーディアンシップ業に携わってきた、イギリス留学をサポートするエキスパート。現在、全英約120のボーディングスクールと連携。伝統的なボーディングスクール入学のためのプライベートコンサルティングも提供している
(写真:ピッパズ・ガーディアンズ提供)

「イギリスのボーディングスクールは、日本人の生徒を欲しがっています。日本人は謙虚で、目上の人に対して尊敬の念を持って接すると評判がいい。そして何よりも勤勉で優秀です。日本人の生徒がいることで、学校によい影響を与えてくれると学校側は考えています。一方、日本でもグローバル化にともなってイギリスに留学する子どもが増えています。にもかかわらず、ボーディングスクールに関する情報が少ないと日本のご家族から聞くことが多く、もっとボーディングスクールについて理解を深めてほしいと考えました」

現在、イギリスのボーディングスクールで学んでいる日本人の生徒は1119人、子どもだけの単身留学に限ると477人にのぼるという(2023年1月時点)。

「よい大学に入るために勉強し続ける日本の教育、またこれまでのような国内トップ大学を目指す価値観に疑問を感じている保護者は少なくありません。それよりも英語力を磨き、国際基準に沿った教育を受けさせたいと考える方が出てきています。イギリスのボーディングスクールは1クラスが10人以下の少人数で、教師も子どもをファシリテートして、意見や考えを引き出す能力に長けている。放課後も多彩なアクティビティが用意されています。広大な敷地に歴史ある校舎とファシリティーがすばらしく、環境にひかれて入学を決める家庭も多いですね」

イギリスのボーディングスクールの1クラスの人数は、通常10人以下と少人数。写真は化学の授業の様子
(写真:Cheltenham Ladies' College提供)

とくに保護者の関心が高いのが、海外有名大学への進学率の高さだ。イギリスのボーディングスクールでは、多くの生徒がオックスフォード大学やケンブリッジ大学などのトップ大24校で組織されるラッセル・グループ大学へ進学する。最近では、アメリカの有名大学に行く生徒も増えていて、日本にいながら海外大学を目指すよりも近道と考えるのは当然だろう。

何より、日本の受験ほど勉強漬けという生活を送っているわけではなく、文武両道でスポーツや文化活動などにも親しみながら、この進学結果というのが魅力だ。

日本の部活動やクラブ活動のイメージとは少し異なるというが、放課後のアクティビティが充実している。写真はアビンドン・スクールのオーケストラ
(写真:Abington School提供)
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どのくらいの学齢で入学をするのが妥当なのか

だが一方で、英語力の問題がある。授業についていける程度の英語力は、どの年齢で留学しても必要だ。実際、どのくらいの学齢で入学するのが妥当なのか。

イギリスでは9月初旬が学年の始まりで、日本からボーディングスクールに入学するのは小学生にあたるYear7(11歳)、中学生にあたるYear9(13歳)、高校生にあたるYear12(16歳)の学齢が多い。とくにYear9からの入学が多いが、定員に空きがあれば、途中からでも入学できる学校もある。

GCSE、A Level /IBDPのカリキュラム詳細はこちらの記事参照

「お子さんを低い学齢(Year7)で留学させる利点は、入学時の競争率が低いこと。Year9以降だと評判の高いボーディングスクールは、競争が厳しくなります。できればボーディングスクールに進学する前に、2~3年プレップスクール(3歳から13歳対象の小学校)に入学することをお勧めします。プレップスクールは比較的小規模で、いきなり1000人を超えるようなボーディングスクールに進学するよりも、学校生活により早くなじむことができます。全寮制の生活や日本と違うイギリスの教育システムに慣れ、英語力を高めるためにも有効です」

ただ、英語力はあるにこしたことはないが、英語ができないからといって諦める必要はないという。学校によってはそれほど高いレベルを求めず、入学後に補講をしてくれる学校もあるからだ。ボーディングスクールに入る前に、子どものためのランゲージスクールで学ぶという方法もある。

「子どもはどんどん英語を吸収するので、9~10歳にプレップスクールで鍛えられると、その後の進学先の選択が広がります。シニアスクールから入る場合には、学校生活を楽しむためにもある程度の英語力があったほうがいいでしょう」

小さいうちから親元を離れて単身留学となると心配も多いが、競争率、英語力という点では早ければ早いほどいいということだ。現在、イギリスには私立のボーディングスクールが434校ある。わが子に合う学校は、どのように選べばいいのだろうか。

「いろいろな学校があり子どものタイプによって異なるので、一概にここがいいとは言えません。例えば、音楽が好きとか、スポーツが好きとか、あくまでも子どものやりたいこと、性格に合わせて選ぶべき。私たちは、親子にヒアリングを行い、子どもに合いそうな学校をいくつか紹介しています。それらの学校を検討したうえで5校程度に絞り、現地に行って自分の目で確かめてほしい。通常だと、そのうちチャレンジ校、本命校、安全校の3校を選んで受験するイメージです。この点は、日本の入試に似ているかもしれません」

学校は「子どものやりたいこと、性格に合わせて選ぶべき」とヒューズ氏は言う。写真はアートの授業の様子
(写真:Millfield School提供)

日本とはまったく異なる選考方法

実際の入学試験の内容は、どのようなものなのか。対策はどのように行えばよいのか気になるところだが、あまり対策をしすぎてもよくないという。

「選考方法は入学する学年と学校によって異なりますが、すべての学校でインタビューがあります。基本はフェイストゥーフェイスで、日本にいる場合はオンラインで行うことも可能です。インタビューは30分〜1時間ほどで語学力や、子どもが寮になじめるかどうかコミュニケーション能力を測ったりします。面接に加え、英語の読解とクリエイティブライティング(作文)、数学、ノンバーバル・リーズニング(図形や空間把握など知能テストのようなもの)とバーバル・リーズニング(語彙力などの言語系の発達を図る)が必須の場合が多くなっています。

数学のテストは日本人の子どもにとっては簡単なようですが、文章題は英語ができなければ苦戦するかもしれません。試験に備えて家庭教師を付ける人もいますが、学校は試験慣れをした子どもを嫌うので、あまり準備をしすぎないほうがいいと思います。ただし、試験ではパソコンを使用するので、パソコンの扱いには慣れておいたほうがいいですね」

女子寮の様子
(写真:Rugby School提供)

試験自体は難しくなく、トリッキーな問題も出題されない。できないと受け入れないというよりは、難しくないので多くの子がいい点を取るため、インタビューのほうにより重きがあるという。落とすための試験ではなく、あくまで学校への適性を見る試験ということだ。

そのインタビューでも「あなたは学校に対して、どういう貢献ができるか」という視点を重視する学校が多いという。勉強以外で自分は何ができるのかを話せるといいが、難しく考える必要はない。

「例えば、楽器が得意ならオーケストラに参加できますとか、アートでもスポーツでも自分が得意なことをアピールすればいいのです。模擬国連もいいですね。日本人はシャイな人が多いですが、実はイギリス人もそうなんです。先生は話しを引き出すのが上手ですから、緊張せずに楽しむつもりで臨んでくださいね」

教育熱心なイギリス人だと、子どもが生まれたらすぐにここぞと思う学校や自身が卒業した母校にまずは登録を行うという。日本からボーディングスクールに入学を検討する場合も、まずはホームページから登録手続きするのが第一ステップだ。登録しないと学校訪問もできない。150ポンドほどの費用がかかるが、毎年更新され、学校の情報も送られてくるようになる。

各校の強みは、ホームページで公開されているテストやコンペティションの結果、進学した大学の学部・学科の人数をみれば、ある程度目安がつく。日本にいてイギリスの学校を詳細に知る、志望校を選ぶのはなかなか難しいが、現地を訪れてみる、ピッパズ・ガーディアンズのような留学エージェントに相談するなどの方法もある。

海外大学を目指す子どもが増えるにつれて、イギリスにとどまらずアメリカやカナダなど現地校を集めたイベントの開催も日本で増えているから、うまく活用していきたい。

(文:柿崎明子、注記のない写真:Cheltenham College提供)

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