ボーディングスクールが注目される理由

高校卒業後、海外大学に進学する子が上位校を中心に増えてきている。英語力を磨きたい、世界で活躍したい、多国籍な環境で学びたいなど理由はさまざまだが、国内でもトップレベルの大学に行ける実力のある子が、あえて海外大学を目指すようになってきている。

こうした中、教育熱心な親から注目を集めているのがボーディングスクールだ。ボーディングスクールとは寮制の学校のこと。親元を離れて、寮で規則正しい生活を送り、仲間と寝食を共にしながら勉強だけでなくスポーツなどの課外活動にも全力で取り組むところが多い。イギリスをはじめアメリカやカナダ、スイス、またアジアなどにもあり、その特徴はそれぞれ異なる。

では今、なぜボーディングスクールが保護者の関心を集めているのか。グローバル化が進み、子どもの進路選択もまたグローバルになっていることも当然ある。だが、中学受験をはじめ子どもの頃から続く競争的な日本の教育環境に対する懸念や疲れ、また国内大学の国際競争力が低下していることから、大学進学の前段階から海外で学んで英語力を身に付け、海外大学を目指したいなどのニーズがあるようだ。

ただ、日本にいながらボーディングスクールの情報を収集するとなると難しいことも多い。インターネットに情報はあふれているものの、内容を精査しなければならないし、学校の雰囲気や特徴、寮生活の実際を知りたいとなると情報源も限られる。また入学に最適な時期や試験の内容、必要な英語力の程度、そのための準備は何をしたらよいのかなど、知りたいことは山ほどある。

そんな中、11月に「ブリティッシュ・ボーディングスクール・フェア・ジャパン2023」が東京・大手町で開催された。イギリス留学に詳しい専門家によるセミナーに加え、本国から来日したボーディングスクールが学校の特徴などを紹介するセミナーや個別相談会が行われた。当日は200組460名が来場したというから、その関心の高さがわかるだろう。

「国際的に通用する資格」を取得できるのが魅力

来日したボーディングスクールの顔ぶれも豪華で、世界的な名門校として知られるラグビー・スクールのほか、イギリスの名門女子校チェルトナム・レディス・カレッジ、男子校の名門アビンドン・スクール、IB(国際バカロレア)スクールとして有名なセブノークス・スクールなど総勢15校が集まった。

世界的な名門校として知られるラグビー・スクール
(写真:Rugby School提供)
写真の続きを見る(参加校15校の伝統的な校舎)

現在、イギリスには私立のボーディングスクールが434校あるが、創立から数百年経つというところも珍しくなく、中には1000年以上の歴史を持つ学校もある。その多くが郊外にあり、自然豊かな広大な敷地の中に校舎や寮はもちろん、スポーツや芸術などに親しめる施設を数多く備えている。伝統的で美しい建物が並ぶさまは、まさに「ハリーポッター」さながらの世界で、写真を見ただけでも魅了されてしまう。

各学校の特徴は、理数科目に強い学校、テニスに力を入れている、あるいは音楽に力を入れている学校、留学生が多くサポートが充実している学校などさまざまだが、教科学習のみならず芸術やスポーツに力を入れるなど、知識や技能の習得にとどまらない全人教育を掲げている学校が多い。さらに1クラスの人数が、教員一人に対して小学校は9.3人、中学・高校は7.9人と少人数で、日本とは比べものにはならない手厚さだ。

※INDEPENDENT SCHOOLS COUNCIL「ISC CENSUS AND ANNUAL REPORT 2023」

イギリスには16歳の子が受けるGCSE(General Certificate of Secondary Education)と呼ばれる10科目前後で構成される中等教育試験がある。9〜1で評価され、その後の進路にも影響するのだが、このテストの結果で学校全体のレベルがある程度わかる。だが、それぞれの学校の特徴が大きく異なることから、学力だけでなく子どものやりたいことや得意なことなども含めて学校選びをすることが大切だという。

16歳から18歳にかけては、学校により異なるがAレベル(Advanced Level Qualifications)またはIBDP(International Baccalaureate Diploma Programme)のカリキュラムで学ぶことになる。

Aレベルは、ケンブリッジインターナショナルが提供する高等教育機関入学のために必要な資格で、イギリスの高校のほとんどが導入している。約55科目の中から3科目を選択して受験し、その結果で大学の合否が決まる。

一方、IBDPは国際バカロレア機構が提供する16〜18歳を対象とした大学入試準備プログラムだ。6つのグループから上級レベルの科目を3つ、標準レベルの科目を3つ、合計6科目(各科目最大7点)を履修。さらに課題論文、知の理論、創造性・活動・奉仕から各1点が加わる。IBDPの資格取得には45点満点のうち原則として24点を取る必要がある。スコアにより出願できる大学が違い、合否判定に使用される。世界各国の大学を受験できることから、イギリスでもIBDPを導入する学校が増えている。

ボーディングスクールで学ぶことで、こうしたAレベルやIBDPなど国際的に通用する資格を取得できる、つまりイギリスのみならずアメリカなどの海外大学進学に近づくことができるのは何よりの魅力といえるだろう。

入学時の英語力はどの程度必要なのか?

では、入学時の英語力はどのくらい必要なのか。一言でいえば、現地で英語の授業についていけるレベルとなるが、前述のボーディングスクール・フェアに登壇したJ PREP代表の斉藤淳氏は、わかりやすい例として英検を上げ、あくまで目安としたうえでこう話す。

「小学校から入学するのであれば英検3級から準2級ぐらい。中学校からなら英検2級を取得していれば、授業についていけるレベルには到達している。日本の中学受験でいえば、英語入試を実施している上位校のほうがハードルが高い。高校や大学からであれば英検準1級、1級を念頭に準備すると選択肢が広がる」

とはいえ、英語力はあるにこしたことはない。これで十分とは考えずに、英語力向上に継続して取り組んでおくのがよいだろう。

英語塾を経営する斉藤氏は、現在は海外留学を目指す生徒の支援もしているが、自身が米・イェール大学の寮で生活した経験、またアメリカで多くの留学生を見てきた立場から、イギリスのボーディングスクールを高く評価する。

「ティーンエージャーの教育は難しいが、子どもが成長する中で年齢に応じた課題や、さまざまな国から来る留学生への対処など、英国の寮制教育は歴史が長くノウハウが確立している。GCSEやAレベル、IBDPなどを通じた学力養成、その評価の仕組みもしっかりしている。ただ医学部や工学部に進むのなら、国内で十分という考え方もあり、海外で中等教育を受けさせるなら、リーダーとして国際秩序形成に参画する意思を本人と話し合ったほうがいいのではないか」

現実的な問題として、やはり誰でも行けるところではないということもある。学費をはじめとする留学費用は、決して安くはないからだ。

イギリス私学団体のIndependent School Councilによると、3〜13歳が通うプレップスクールで年間約500万円、13歳から通うシニアスクールで年間約700万円(1ポンド187円で計算)かかる。そのほかにも制服や学用品、イギリスへの渡航費、修学旅行・遠足、医療保険、ガーディアン(身元引受人)手配費、ホストファミリー宅の滞在費、家庭教師代なども追加でかかってくる。

そのうえ円安だ。日本にいたとしても塾や習い事などで費用はかかるため、勉強からスポーツ、文化活動までワンストップでお任せできるボーディングスクールの費用は、そこまで高くないという考え方もある。だが、それなりの費用がかかること、また長期にわたって子どもと離れて生活することをふまえたうえで、どんな子どもに育ってほしいのか、留学を通じて子どもがどれだけ成長できるのか、家庭で十分に話しあいたいところだ。

では実際、どのようにボーディングスクールを選べばよいのかについては、後編につづく

(文:編集部 細川めぐみ、注記のない写真:Malvern College提供)