従来の史観を批判、人は太古から遊び心ある存在 『万物の黎明』など書評3冊

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ブックレビュー『今週の3冊』

 

[Book Review 今週のラインナップ]

・『万物の黎明 人類史を根本からくつがえす』

・『性差別の医学史 医療はいかに女性たちを見捨ててきたか』

・『名画と建造物』

『万物の黎明 人類史を根本からくつがえす』デヴィッド・グレーバー、デヴィッド・ウェングロウ 著
『万物の黎明 人類史を根本からくつがえす』デヴィッド・グレーバー、デヴィッド・ウェングロウ 著/酒井隆史 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

評者・早稲田大学教授 柿沼陽平

グレーバーは『ブルシット・ジョブ』『負債論』『価値論』などで知られる文化人類学者だ。彼が考古学者ウェングロウとともに著したのが本書である。惜しくも本書が、2020年に死去したグレーバーの遺著となった。

従来の史観を徹底的に批判 人は太古から遊び心のある存在だ

前提として、副題で「根本からくつがえす」とされた従来の「人類史」がどのようなものだったかを簡単に確認しよう。欧州人はかつて植民地獲得に伴って新たな価値観に遭遇した。欧州の価値観が先住民からの批判を受け、反動として練り上げてきたのが進歩史観である。農業革命や私有制の普及は進歩の証とされてきた。同時に、太古の人々や先住民に対しては、牧歌的平等社会や原初的狩猟採集社会のイメージを付与してきた。

つまり人類は、小集団で暮らす無邪気な集団から、農業革命を経て都市、文明を生み、家父長制・常備軍・大量殺戮(さつりく)・官僚制等に染まっていったというわけだ。無知な未開人から進歩的現代人へ、しかし進歩の裏には影もありといったところだ。

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