高校教職員8割が「理解しづらい」、「奨学金制度」拡充も情報が届かない訳 所得連動返還方式や給付型を知らない家庭も

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今や大学生の2人に1人は利用している独立行政法人日本学生支援機構(以下、JASSO)の奨学金制度。進学の支援制度として欠かせないものだが、一方で、利用者が卒業後に返済に苦しむ「奨学金問題」が社会課題として指摘されている。そうした中で近年、国やJASSOは制度の充実を図っており、2024年度もさらなる拡充が実施される予定だ。こうした動きをどのように評価し、学校現場や利用者は対応していくべきか。奨学金制度に詳しい桜美林大学教育探究科学群学群長・教授の小林雅之氏に話を聞いた。

リーマンショック以降、「奨学金問題」が表面化

――奨学金の利用者が卒業後に返還が困難となる「奨学金問題」が、社会課題となっています。どのような背景があるのでしょうか。

小林 きっかけは1998年です。当時、財政投融資のお金が余ったことから、その使い道として、日本育英会(現・JASSO)の第二種奨学金(有利子での返済となる貸与型奨学金)が選ばれました。このときに、貸与の条件となる成績基準や所得基準が大幅に緩められ、以後、第二種奨学金の利用者数は2013年まで急増しました。

小林雅之(こばやし・まさゆき)
桜美林大学・教育探究科学群・学群長・教授
東京大学大学院教育学研究科修了、博士(教育学)。広島修道大学助教授、放送大学助教授、東京大学大学院総合教育研究センター助教授、教授、桜美林大学国際学術研究科教授を経て現職。東京大学名誉教授。広島大学高等教育研究開発センター客員研究員、放送大学客員教授、文部科学省学校法人運営調査会委員、衆議院調査局客員調査員、大学・短期大学基準協会理事なども務める。著書に『大学進学の機会』(東京大学出版会)、『進学格差』(ちくま新書)、編著に『教育機会均等への挑戦―授業料と奨学金の8カ国比較』(東信堂)など
(写真:本人提供)

1998年当時はまだ終身雇用制が守られていたため、学生の多くが卒業後、計画的に奨学金を返済することが可能でした。しかし2008年のリーマンショック以降、新卒者も正社員での就職が難しくなり、返済が困難になる人が増えたのです。

そうした中で、2004年に日本育英会を受け継いで発足したJASSOは、回収の強化を図っていきました。財政投融資の担当である財務省が、貸与金を確実に回収するようJASSOに強く求めたからです。この頃から滞納者に対する訴訟も増え、お金を返したくても返せずに追い詰められていく若者の存在が、社会問題化していったのです。

――1990年代末から増え始めた第二種奨学金の利用者数は、2013年度の102万人をピークに減少に転じ、2020年度には72万人にまで減っています。これは奨学金問題が関係しているのでしょうか。

小林 そうですね。「卒業後の返済の負担を考えれば、奨学金は使いたくない」というローン回避が生じたのだと思います。中には進学自体を諦める人たちもいたことでしょう。

一方で第一種奨学金(無利子での返済となる貸与型奨学金)については、2017年度から貸与基準を満たす希望者全員が貸与を受けられるようになるなど、拡充が図られました。これにより第一種を利用できる人が増えたことも、第二種の利用者が減った理由として考えられます。

画期的だった「給付型奨学金」の導入

――2017年度は第一種奨学金の拡充だけではなく、「所得連動返還方式」や「給付型奨学金」も導入されました。さらに2020年度には、授業料の減免と給付型奨学金をセットで行う「高等教育の修学支援新制度」がスタートしています。

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