存続の危機から再生なるか「近江鉄道」めぐる挑戦 県や沿線自治体が動いて、上下分離方式導入へ

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自治体側の近江鉄道への不信感もあった。突然「会社の純利益は4億円超だが、鉄道事業は3億円の赤字」と言われても当惑するだけである。非上場企業なので事業報告書や経営資料が開示されることはなかった。

同社は県内では大企業だが、意外に存在感が薄かった。行政や地元企業と連携するシーンがほとんど見られなかった。近年、西武グループは県内のホテル、スキー場から次々と撤退した。経済界トップが「近江さんは顔が見えない」と言い切ったのを聞いたこともある。

県は2017年度に近江鉄道線に関する報告書「地域公共交通ネットワークのあり方検討調査報告書」を作成し、鉄道存続とパス化などの比較検討を行った。

鉄道存続だと年5.1億円の赤字が出ると試算された。全線バス転換になると運行経費は鉄道の77%で、年4.3億円の赤字に抑制できる。ただ、初期投資に30億円かかるうえ、近江八幡―八日市間の所要時間は鉄道19分なのがバス29分と利便性は大幅に低下する。

最大の問題は必要とされる111人のバス運転手の確保だ。近江バスですらドライバー不足が深刻なのに、大量の人材を新規に集めるのは現実的ではない。

部分的なバス転換も検討されたが、鉄道との二重投資も発生し収支改善は限定的。利用の多い八日市線のみ鉄道で存続するならば、電車基地を彦根駅から東近江市内に移設するのに巨額の投資が必要となる。

滋賀県庁が調整役に

BRT化も試算されたが、初期投資120億円で整備期間は1年以上かかり、年11.5億円の赤字となる。LRT化だと、車両5連18編成、彦根・八日市駅付近など計7kmの軌道敷設などで初期投資112.1億円以上とされた。

こうして、沿線市町の首長、知事らは法定協議会設置で同意し、2019年11月、近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会が設立された。2020年、全線を鉄道線として存続することが決まり、運営形態を公有民営の上下分離方式にする方針が確認された。

運営のスキームとしては、岐阜県の養老鉄道(旧近鉄養老線)をモデルにした。県や10市町が設置した一般社団法人の管理機構が線路や駅を維持管理したうえで、第二種鉄道事業者の近江鉄道が鉄道を運行することになる。

では、県と10市町、近江鉄道、さまざまな思惑が交錯する中で、どうして鉄道線としての存続につながったのか。調整役となった県の役割が大きかった。

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