存続の危機から再生なるか「近江鉄道」めぐる挑戦 県や沿線自治体が動いて、上下分離方式導入へ

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一方、本線米原―彦根―八日市―貴生川間の利用はかなり落ち込み、輸送密度は1500人を割った。JR西日本の東海道本線と2~5kmしか離れていないこともあり、沿線からJR駅前へクルマで移動してJRに乗り換えるパークアンドライドの利用が目立つ。

近江鉄道の運賃に割高感があるのも否めない。JRだと彦根―能登川間13.8kmの運賃は240円だが、並行する近江鉄道線は彦根―愛知川間12.1kmで530円。通学定期でも倍以上の開きがある。

近江鉄道も自助努力で乗客を増やそうと模索してきた。エレベーター大手のフジテックが整備費を負担して、2006年にフジテック前駅が開業した。多賀線スクリーン駅は大日本スクリーンによる請願駅である。高校生の利用も増加傾向に転じた。高校の学区再編で通学距離が長くなったこと、高校の統合で彦根口駅の通学利用が急増したことが背景にある。

こうして、2002年度の利用者数369万人(うち通勤定期66万人、通学定期144万人)が、2019年度に476万人(うち通勤150万人、通学167万人)となった。この間、定期外客は横ばいだったが、定期客が1.5倍に増えているのは注目に値する。

あわせて近江鉄道は合理化に取り組み、ワンマン化や無人駅化などで人件費を削減したり、昼間の運行本数を1時間ごとに減便したりした。

ただ、営業努力だけでは解決しなかった。営業費用を増やしたら営業赤字は年2億円を超え、バス事業や不動産など他部門で穴埋めする状況が続いた。2014年に値上げするが収支改善効果は限定的だった。

明治期に造られた橋梁、旧式の電車、37kgレール……設備投資や修繕を先延ばしにして費用を抑制していたが、それも限界に来ていた。累積営業赤字は40億円を超えた。

協議会に漂う温度差と不信感

2016年6月、近江鉄道は開業120周年を迎える。往年の「赤電」カラーの記念列車に、三日月大造滋賀県知事が鉄道員の制服を着て添乗した。

そして同月、近江鉄道は県に「民間企業の経営努力では鉄道事業の継続が困難」と報告し、協議を要請した。

2018年から法定協設置に向けた任意協議会がスタートした。筆者は何度か傍聴したが、最初は各市町の温度差を感じた。人口も財政力も近江鉄道への依存度も異なる10市町の利害調整は容易ではなかった。「住民の関心があまりない」と言い切る自治体もあった。財政負担を懸念して予防線を張る首長もいた。

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