演歌は国境を越えた 黒人歌手ジェロ 家族三代の物語 小堺正記著 ~望郷の歌が育てたアメリカ人演歌歌手

演歌は国境を越えた 黒人歌手ジェロ 家族三代の物語 小堺正記著 ~望郷の歌が育てたアメリカ人演歌歌手

評者 仲倉重郎 映画監督

初めてジェロの歌を聴いたとき、実にうまいと思った。日本人である祖母の歌う演歌を聴いて育ったと知って、深いドラマがあると思った。

ジェロは、1981年、米のペンシルベニア州ピッツバーグ生まれの日系三世である。横浜育ちの祖母が進駐軍の黒人兵士と恋に落ち、長女を出産。朝鮮戦争後、ハーフの娘を残して渡米。残された娘も13歳で米国籍をとり、両親のもとへ。その後、結婚して4人の子に恵まれた。その4人目がジェロである。

祖母と母の二人が歌う望郷の歌・演歌が、幼いジェロの心に深く刻まれた。5歳のときにビデオで見た紅白歌合戦の印象が強烈で、「大きくなったら演歌歌手になって紅白に出る」と宣言した。

高校ではヒップホップ・ダンスが得意な普通の少年だったが、2003年大学を卒業すると少年時代の夢を果たすべく来日。NHKのど自慢で合格し、各地のカラオケ大会に出場しては優勝か準優勝するなど、大会を荒らしまくった。それがビクターのディレクターK氏の目にとまり、運命の扉が開かれた。

ジェロの才能を信じたK氏は、演歌らしくない演歌を目指し、「歌いやすい曲よりはプロならではの歌」をと考えた。演歌界の常識に対して、K氏にどれほどの闘いがあったか。デビューさせるまでの4年間はとてもドラマティックで、ビジネスマン物語としても面白い。

08年2月、「海雪」でデビュー。初舞台は東京巣鴨の駅前。「おばあちゃんとの約束」が話題となって大ヒットした。8月、ジェロは演歌歌手として、故郷のピッツバーグで凱旋公演した。その日こそ、演歌が海を渡った日だと著者は言う。

一つの歌の誕生には、歌手のドラマがあり、生みの親のドラマがある。

こさかい・まさき
1965年東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。NHKに入局し、情報番組やドキュメンタリーを制作、現在NHKプロデューサー。

岩波書店 1890円 176ページ

  

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