大東市教育長・水野達朗が始めた「先生が抱え込まない」不登校支援の仕組み 民間の視点を生かし「教室復帰と居場所」を支援

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また、家庭への教育支援も行っている。同市では、2016年度から訪問型の支援チーム「つぼみ」を設置し、市内公立小学校の1年生と4年生がいる家庭教育に関する状況把握調査を行うほか、保護者に学びや交流の場を提供してきた。

「これは私が教育委員時代に提案して実現した制度なのですが、保護者の悩みを解消することは不登校の予防にもつながるので、このチームに市内全小学校に派遣しているSSW(スクールソーシャルワーカー)を組み込みました。現在、10名のSSWが学校と連携を図り、保護者を支えながら不登校の子が学ぶ環境を調整しています」

水野氏が家庭教育支援を重視する原点は、これまでの支援にまつわる経験にある。大学時代にタイ北部の少数民族の自立支援に携わった際、「支援者が離れた後も、その場所が持続的に発展する仕組みをつくること」という開発援助の鉄則を学んだが、後にそれは不登校支援も同じだと気づいたのだ。

「教員免許を持っていたこともあって大学卒業後は不登校支援の会社に入り、不登校の子の学習支援やメンタルケアを行っていたのですが、私が家庭訪問すると明るくなって勉強もするのに、離れると自傷行為や不登校が再発する子がいました。これは村人が支援者に依存してしまうのと同じで、NGの支援だと気づいたのです。それ以降、子どもだけでなく、悩む保護者をエンパワーメントして環境を整える不登校支援をするようになり、教育長になった今もこの視点を大切にしています」

「目標は教室復帰」をやめるため、2年間徹底的に議論

「学びへのアクセス100%」の構想は、教育長に就任した2020年にはすでに水野氏の頭の中にあったというが、すぐにスタートしなかったのはなぜなのか。

「私が不登校児童生徒の復学支援に携わってきたため、『そんな人が居場所づくりってどういうこと?』と疑問を持つ方もいるでしょうし、学校の先生は復学支援推しの方が多いです。民間と学校ではアプローチが異なることをご理解いただき、社会的合意、学校と教育委員会の合意、教育委員会内の合意を得たうえで進めたかったので、2年間徹底的に議論を行いました」

そのうえで、水野氏は校長会で「先生方は学校に来ている子に注力していただきたい」と明確な方向性を示したという。

「以前は教室復帰を目標としていたため、不登校数が増えるほど学校の評価が下がるような仕組みになっていましたが、その目標設定を『学びにアクセスできていればよい』としたのです。そのため校長会では、30日までの欠席にはこれまでどおり家庭訪問などの支援をお願いしたいけれど、30日を過ぎたら『学びへのアクセス100%』につなげてください、不登校の子への支援はSSWなどが中心となって行うので先生方は抱え込まずに連携してほしいと、お伝えしました」

子どもの不登校の問題を抱え込む教員には2タイプあるそうだ。1つはつなぎ先がわからず抱え込んでしまうタイプ。もう1つは、熱い思いで自分が何とかしようとするタイプ。後者の場合、教員が関わることで事態が悪化するケースがあるという。

「私は民間カウンセラー時代に、学校の先生からよく『あの子はあんなに明るくなったけど、どんな魔法を使っているのですか』と聞かれましたが、それは私が学校の先生じゃなかったから。つまり、先生の技術の問題ではなく、『先生という立場』だから反発されたり、できなかったりすることが多くあるのです。そうしたことも学校にお伝えしました」

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