大東市教育長・水野達朗が始めた「先生が抱え込まない」不登校支援の仕組み 民間の視点を生かし「教室復帰と居場所」を支援
「例えば、問題を抱えながら無理に登校を続けて行けなくなってしまったケースは学校に行かないほうがいいでしょう。一方、夏休みの宿題をやらなかったために2学期の始業式を何となく休んでしまった場合などは、不登校が長期化して問題行動が出るようになることもあり、早期に学校に向かわせたほうがいい。教育機会確保法では教室復帰を目的としないことが示されましたが、今の不登校支援の多くが、教室復帰を目指すか、『行きたくなければ行かなくていい』かの両極に振れがちで、その間のグラデーションがありません。そこで本市は、子どもたちが学校に行きたくなる工夫をしながら、学校以外の居場所づくりも進めているのです」
1つの支援策がすべての子どもに当てはまるとは限らない。スイスチーズモデル(※)のように、さまざまな支援策をいくつも重ねることであらゆるケースに対応するのが同市のスタイルなのだ。
※ 英国の心理学者、ジェームズ・リーズンが提唱。穴のあるスイスチーズをリスク管理に例え、安全対策を何層も重ねることでリスク軽減を図る考え方
「学びへのアクセス100%」、5つの中身とは?
主に次の5つを掲げ、具体的な支援を行っている。
・大東市教育支援センター「ボイス」
・民間フリースクールとの連携
・ICT等を活用した学習支援
・家庭教育支援チーム「つぼみ」による支援
まずベースとなるのが「魅力的な学校づくり」だ。魅力的な学校とは、わくわくできる学校だと水野氏は言う。
「わくわくするには、学び続けたいと思える授業、学びが生活をよりよくすると実感できる授業が大前提。本市は、学び合う授業づくりを10年以上前から続けていて、主体的・対話的で深い学びを先取りしていました。これを進化させていくことで、わくわくする学校づくりは可能だと考えています」
しかし、どうしても学校が合わない子もいる。そこで、多様な学びの機会の提供として、大東市教育支援センター「ボイス」を運営している。
「『ボイス』は以前、適応指導教室の名目で運営していたのですが、利用者は多くて2〜3人で、0人のことも。そこでコンセプトそのものを『リスタート・リスタディ・リスタイル』へと見直し、必ずしも教室復帰を目的とはしない、多様なキャリア教育を行う居場所へと作り変えました」
フリースクールの運営や指導経験がある人材を配置し、大学生スタッフにもコンセプトや支援のあり方をしっかり共有するようにした。今は毎日10人ほどの子どもたちが集まり、eスポーツやプログラミング、野菜の栽培などさまざまな学びが行われているという。

このほか居場所づくりとしては、民間フリースクールとも連携を強化し、ガイドラインを策定して学校が出席扱いを判断しやすい環境を整えた。
しかし、家から出られない子もいるので、「ICTを活用した学習支援」も充実させている。水野氏は教育長に就任した際にICT教育戦略課を設置した。これは「先生のやりたいことを実現する課」として新設したものだが、1人1台端末の活用が進み、結果的に今、その蓄積してきた取り組みが不登校支援にも生かされているという。
「時空を越えて学べるのが、ICTの強み。本市では、子どもや保護者の希望があれば授業のライブ配信を行って出席扱いにしている学校も多く、AIドリルを導入しているので家で学ぶこともできます。今年度からはNPO法人カタリバのメタバース空間『room-K』も導入したのですが、利用した子がボイスに来られるようになった事例も。不登校支援で重要なのは、学校に行くか家に引きこもるかの2択ではなく、スモールステップを刻むこと。ICTを使うとそのステップをいくつも作ることができます」