「カルト宗教」の巧みな勧誘術、大学生の心の隙に入り込む手口と学校対策の今 高校教員が信者の例も、時期学年問わず要注意

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元の生活を取り戻すには活動期と同じだけ時間がかかる

一度深入りしてしまうと、脱退も一筋縄ではいかない。

「一般的に、回復には活動期と同じくらい時間がかかるとされます。1年間入会していた場合、元の生活を取り戻すにはさらに1年が必要です。人間関係を断ち切れたとしても、脱退者は地獄に落ちるなどと刷り込まれ根強い恐怖心が植え付けられており、特別なフォローが求められます。例えば、同じ脱退者のピアサポートや脱退支援者のケアを受けたり、あえて聖書の正しい解釈を学んで誤認を解いたり。大学がここまで支援をするのは難しいので、弁護士やサポーターを紹介するなど複数の選択肢を提示しています」(太刀掛氏)

では、勧誘を受けやすい学生に共通する特徴はどのようなものか。

「性別や学年に関係なく、キャンパス内に1人でいることが多くて、意識が高いまじめそうな学生が狙われる傾向にあります。同郷出身、同じ高校出身などさまざまな糸口から関係性をつくり、接触してくるケースが多いと見られます」

そう語るのは勧誘の手口に詳しい立正大学心理学部教授の西田公昭氏だ。

西田公昭(にしだ・きみあき)
立正大学心理学部教授
日本脱カルト協会 代表理事
(写真は本人提供)

「いつの時代も、大学生には心の隙間があります。『実家や親から自立しなければ』と焦る中で、自分の生き方を考え、人生の意義を探究する時期だからです。今こそ自分のアイデンティティーを確立しなければと思うのに、受験競争から抜け出した途端、スマホ、ゲーム、バイトにコンパにと飛ぶように時間が過ぎていく。まじめな人ほど、こうした自分を責めてしまいます。カルト宗教はそんなときに『一緒に生きる意味を勉強しない?』と持ちかけてくるのです」(西田氏)

答えを求めてもがいていたところに、宇宙の始まりから生まれた意味まで巧みな話術で力説されれば、ふと「そうかもしれない」と思ってしまう。考えるだけの時間的余裕があることも相まって、ネットで調べるほどに人生に不安が募り、まじめゆえに、次々とくる誘いを断りきれずどんどん抜け出せなくなってしまうのだ。

実は、カルト宗教にとって大学生はもっとも欲しい“労働力”でもある。とくに偏差値の高い大学の学生は影響力があり、インフルエンサーとしての価値もある。

「カルト宗教には具体的な勧誘戦略があり、有力大学の学生を集中的に勧誘した時代もありました。女性信者が色仕掛け的に勧誘していたこともあります。それが今ではオンラインサロンやSNS勧誘など手口が増え、より巧妙化しているのです」(西田氏)

心理学に裏付けられた勧誘術はかわせない、「断る練習」も大事

では、実際に勧誘された際、学生はどう対処すればいいのだろうか。

「相手をしないことがいちばんです。中途半端に話を聞けば、相手の術中にはまって振り払えなくなります。勧誘側は元気がよくて勢いもあるし、褒めてくれたり親身になってくれたりと気持ちよくもさせてくれるため、どうしても脇が甘くなってしまうのです。もちろん、論破しようと挑戦するのは論外であり、むしろ相手の思うつぼ。逆に丸め込まれる可能性が高くなります。結局のところ、耳をふさいで関わらない毅然とした態度を示すことが重要なのです」(西田氏)

カルト宗教の勧誘手口は人の心理にうまくのっとっており、社会人でも勧誘をかわすことは困難だと西田氏は指摘する。

「人間、感じのいい人や魅力的な人の話は断りにくくなるものです。見た目がよく、笑顔で近づいて来て、自分に関心や好意を示してくれ、さらに何らかの共通点(大学や地元など)があったり悩みを受け入れてくれるとなれば、学生には太刀打ちできません。これは営業のテクニックとしてビジネスでも使われる手法で、心理学でも理論化されているものです。前もって手口を知り、勧誘されても相手の話を聞かない、コミュニケーションを取らないことを心がけなければなりません。なかなか機会はありませんが、断る練習をしておくことも大事。誰にでも親切に対応する必要はないのです」

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