娘の結婚や家族の別れを描く繊細な家庭劇だと思って見ていると、ふと不可解なセリフやシーンに出くわす。感動のどこかにそれらが引っかかったまま、ずっと残る。多くの人が戦後の小津映画から受ける印象だろう。
「あたくし、猾(ずる)いんです」。『東京物語』(1953年)で原節子が演じる、戦死した次男の妻、紀子の言葉が、それだ。あるいは遺作となった『秋刀魚の味』(62年)で主人公、笠智衆と戦中の部下だった加東大介が「軍艦マーチ」のレコードがかかる場末のバーで交わす会話。「けど(戦争に)敗(ま)けてよかったじゃないか」。本筋と無関係なのに長く記憶にとどまるシーンだ。
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読み頂けます。
ログイン(会員の方はこちら)
無料会員登録
登録は簡単3ステップ
東洋経済のオリジナル記事1,000本以上が読み放題
おすすめ情報をメルマガでお届け
トピックボードAD
有料会員限定記事
無料会員登録はこちら
ログインはこちら