「脱・水戸岡」?JR九州、転換期の鉄道デザイン戦略 社長が明かす「新デザイナー起用」の意図は何か

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もちろん、鉄道のデザインは初めて。「最初は、家みたいな案が出てきた。デザインするのは家ではなくて鉄道ですよと、いま大議論の真っ最中」(古宮社長)。1年後には車両が完成して運行しているはずだが、まだ、デザインは完成しておらず、5月10日の発表には間に合わなかった。

イフーのホームページに掲載されている同社のリノベーション事例を見ると、木を多用した雰囲気が水戸岡デザインになんとなく似ている気もするが、古宮社長は「木を使うといったことには特段こだわらない」としており、ほかの水戸岡デザインの観光列車との親和性は気にしていないようだ。

いさぶろう・しんぺい
新たな観光列車は肥薩線を走っていた「いさぶろう・しんぺい」(写真の前2両)を改造する(写真:ARIAKE787/PIXTA)

では、ななつ星リニューアルが本当に水戸岡氏の最後の仕事なのか。この点について、古宮社長は次のように話す。

「これで縁が切れるというわけではない。もちろん永遠に続くわけではなく、いつかはデザイナーが交代する時期が来る。過去には、水戸岡さんにほかにいい人はいますかと相談したこともある。とはいっても、水戸岡さんとの契約はまだ続いていますよ」。

古宮社長に話を聞いたあとで、JR九州に詳細を確認してみたら、水戸岡氏は「アドバイザーとして、36ぷらす3やふたつ星などのD&S列車やななつ星、小倉工場鉄道ランドなど、これまで手掛けて頂いた案件については、手をいれる場合などにご助言を頂いている」とのことだった。新規の車両デザインはここに含まれていない。

「水戸岡デザイン」今後の展開は?

コロナ禍の2020年6月、アフターコロナ時代における鉄道のあるべき姿について水戸岡氏に話を聞いたことがある。「将来は現在とは違うウイルスが来るかもしれない」として、「自宅に仕事場を確保できない人のために、自宅を必要に応じて一瞬でオフィスにできるパネルやカーテンができればいい」としたうえで、「住宅を仕切るという考え方は鉄道の車両でも使える」というアイデアを披露してくれた。客室内に車両を仕切るパネルがあちこちから出てきて、瞬時に個室化する仕組みといったものだ。

水戸岡氏インタビュー写真
インタビューに答える水戸岡氏=2020年(撮影:梅谷秀司)

観光列車以外にも水戸岡氏のアイデアが生かされそうな場面は多い。ななつ星のリニューアルが最後の仕事というのはあまりにも寂しい。ぜひ、JR九州もしくはほかの鉄道会社で、誰もが驚くような「新たな水戸岡デザイン」の車両を見てみたい。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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