「脱・水戸岡」?JR九州、転換期の鉄道デザイン戦略 社長が明かす「新デザイナー起用」の意図は何か

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そこに新しい観光列車が加わる。博多―由布院・別府間に新たな観光列車を投入すると5月10日に発表したのだ。「新しい列車を投入しても採算が取れると判断した」(古宮社長)。全席グリーン席で約5時間かけて運行。2024年春のデビューを予定する。

【2023年6月13日13時15分 追記】記事初出時、新しい観光列車の運行に関する記述に誤りがありましたので、上記のように修正しました。

この列車が鉄道関係者の間で話題となった。それまでの同社の観光列車は工業デザイナーの水戸岡鋭治氏が一手に引き受けていたが、この列車をデザインするのはIFOO(イフー)という会社だ。8月28日に運行開始する日田彦山線BRT(バス高速輸送システム)「ひこぼしライン」のデザインを手がけたのも水戸岡氏ではない。今後デビューする2つの車両がどちらも水戸岡氏のデザインではないということになる。

水戸岡氏は1947年生まれの75歳。JR九州発足翌年となる1988年の「アクアエクスプレス」を皮切りに、豪華観光列車「ななつ星in九州」をはじめ、JR九州の車両の大半のデザインを手がけてきた。コロナ禍にあっても、「36ぷらす3」(2020年9月29日報道公開)、西九州新幹線N700S「かもめ」(2021年12月22日報道公開)、「ふたつ星4047」(2022年9月15日報道公開)、「ななつ星」リニューアル(2022年10月12日報道公開)などのデザインを精力的にこなしてきた。水戸岡氏がJR九州のブランド力を築き上げた功労者の1人であることは間違いない。

36ぷらす3
「36ぷらす3」の完成披露式典。水戸岡氏(左)と青柳俊彦社長(当時)=2020年(撮影:尾形文繁)
ふたつ星4047 完成披露
「ふたつ星4047」の完成披露式典=2022年9月(記者撮影)
西九州新幹線「かもめ」
西九州新幹線「かもめ」のデザインも水戸岡氏が手がけた(編集部撮影)

水戸岡氏との「二人三脚」ゴールに?

しかし、JR九州と水戸岡氏による二人三脚の歩みがゴールを迎えようとしているかもしれない。2022年4月8日に都内で開かれたななつ星リニューアルの概要説明会で水戸岡氏は「私の年齢からいって、今回が最後の仕事」と話した。その後に古宮社長に確認すると、「毎回“これが最後の仕事”と言っているが、水戸岡さんは元気ですから」と、JR九州との関係がまだ終わらないことを示唆していた。

そこへ、水戸岡氏ではないデザインの車両が立て続けに発表された。もし、この流れが続くのであれば、同社の鉄道デザイン戦略が転換期を迎えたことになる。JR九州は新たな鉄道デザイン戦略に踏み出したのか。この点についてあらためて、古宮社長に聞いてみた。

まず、ひこぼしラインについては、「当社の社員がデザインすることで最初から決まっていた」と話す。駅舎についても同社の建築担当の若手社員を中心としたチームが、地域とコミュニケーションを取りながらデザインしたという。

また、新たな観光列車のデザインについては、「イフーの社長から鉄道車両のデザインもぜひやりたいという話があった」と、古宮社長が明かす。その熱意にほだされ、ゴーサインを出したという。

イフーは鹿児島市内を拠点に活動するデザイン会社で、古民家などのリノベーションを得意とするほか、高級民泊施設も運営する。2022年12月には、JR九州と連携して、利用者の少ないローカル線の駅を活用したまちづくり事業に取り組む「にぎわいパートナー」に認定され、霧島神宮駅(霧島市)の駅舎改装を託されている。

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