アフターGIGA、奈須正裕に聞く「個別最適な学び」と「協働的な学び」の現在地 教師が子ども観と仕事観を見直すべき理由
子どもは有能な学び手、教師の役目を見直して
――「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実践するために、押さえておくべきポイントはありますか。
まず教師をはじめとする大人が考える「子ども観」を変えること。教師が教えないと子どもは学べないと思いがちですが、子どもは適切な環境と出合いさえすれば、自分で学ぶ力を持っています。
さらに教師の「仕事観」を見直すこと。子どもは有能な学び手です。教師は優秀、子どもは未熟、だから教師が上という考え方を改めるべき。子どもを見取りながら、できないことに足場を架け、できるようになったら外す……何ができてどこに向かおうとしているのかを丁寧に見てサポートするのが、教師の役目だと認識することが大切だと思います。
つまり教師の新しい仕事は、環境を整えること、そして子どもを見ること。教師が整えた環境で、子どもたちがどう学んでいるのかをよく見てください。そう考えると、授業が始まる前に勝負がついているともいえますね。ICTを使うなら、授業前にクラウドに教材を上げた時点で終わっているわけです。もし授業が始まって子どもが選べる選択肢が足りなかったと感じれば、急ぎ修正すればいい。不得意な子に向けて作ると、ほかの子もついてくることができるため、UDの視点で環境をつくれば多様性に応じることができます。
――進めていく中で、教師が直面しやすい壁はありますか?
日本の教科書はよくできているため、指示どおりに使えば若い教師でもある程度教えることができます。そのため教科書で授業をすることに慣れすぎてしまい、“どうしてこれを今、学ばなければ、教えなければいけないのか”を理解できていない教師も生まれてしまいます。
「今日は教科書のここの見開きだけ教えればいい」と1時間単位の短いスパンで考えてしまうと、何を目的として授業をしているのかわからなくなってしまう。すると子どもたちも、どうして今、この勉強をしなくてはいけないのか理解できず、スムーズな授業が難しくなってしまうのです。
どんなに学習指導要領が変わり、教育方法や学習形態が変わっても、授業づくりの基礎を培っておくこと。“教科書のこの部分を今日は教えればいい”ではなく、学習指導要領と教科書を突き合わせて、何のために何を学ぶのかをしっかりと理解し、自分なりに内容を再構成することが大切です。
プロの教師は、教師用の指導書など頼りにせず、児童生徒用の教科書だけで授業ができます。ほかの教科書も参照し、学習指導要領の解説を読み込むと授業はよくなります。こうした基礎ができていれば、どのような教育を実践することになっても応用が利くのです。
――奈須先生は、次の学習指導要領はどのようになると思われますか?
今のカリキュラムや学力の方向性が大きく変わることはないと思います。ただ子どもに学んでほしいことが多すぎる、カリキュラムオーバーロードへの懸念は世界的にも問題になっていて、日本も例外ではないかもしれません。
学習指導要領の中で、教育方法を限定的に示すことは好ましくありません。現場の足かせとなり、自分にしかできないよい授業をしたいという教師の気持ちを砕くからです。「個別最適な学び」や「協働的な学び」も、子どもの学びであって、それを実現する教育方法は多様に存在します。また発展するテクノロジーについて、学習指導要領でどこまで触れるのかというのも悩ましい問題ですが、授業の景色はさらに変わっていくかもしれません。
(文:酒井明子、撮影:梅谷秀司)
東洋経済education × ICT編集部
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