アフターGIGA、奈須正裕に聞く「個別最適な学び」と「協働的な学び」の現在地 教師が子ども観と仕事観を見直すべき理由

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しかし、1人1台端末を使うことで、お互いに都合のよいタイミングでアクションを起こせるようになりました。メールやチャットのような非同期型コミュニケーションが可能になったのです。これまで、子どもたちは教師が設定したタイミングに合わせるために、待たされたりせかされたりしていましたが、その必要がないので同調圧力もなくなり、伸びやかに学べます。

そもそも「1対35で電話をかけている」状況に無理がありました。でも同期型コミュニケーションしかない時代はやるしかない。それを学習規律で可能にしていたわけですが、ICTがあれば学習規律がなくても問題は起こりません。

――そうなると個々でしか学ぶことができず、「協働的な学び」につながらないといった懸念はないのでしょうか。

児童生徒は、実に自然に友達と声をかけ合って一緒に学びます。しかも、友達に聞きたいことがあるときは、迷惑をかけないタイミングはいつなのかをしっかり見ている。判断が各自に委ねられているからこそ、やさしさや配慮も生まれるのです。

「個別最適な学び」では、自立しているからこそ相互に支え合えるよい関係を築いていきます。わがままになるとすれば、それは授業づくりのどこかが間違っているのです。個別的に学ぶからこそ協働的な学びが生み出され、目標とする自立した学習者になることができます。

多様化により求められる「個別最適な学び」と「協働的な学び」

――このような教育が、なぜ求められているのでしょうか?

社会や教育の中で、多様性が高まっているという背景があります。例えば、学校現場でも海外にルーツを持つ子、発達障害を持つ子、特定分野に特異な才能のある子などが昔よりも増えましたよね。

不登校の増加も、深刻な問題です。子どもに理由を聞くと「授業がつまらない」「授業がわからない」という声が多い。学校は“やらなきゃいけないこと”と“やってはいけないこと”であふれていて、窮屈さを感じると。自分のやりたいことができる、やらなきゃいけないことでも、自分に合ったやり方でできる環境をつくろうというのが「個別最適な学び」です。

奈須正裕(なす・まさひろ)
上智大学 総合人間科学部教育学科 教授
徳島大学教育学部卒、東京大学大学院修了、博士(教育学)。神奈川大学、国立教育研究所、立教大学などを経て2005年から現職。専門は教育心理学、教育方法学。長野県、山形県、静岡県など、学校現場と共にカリキュラムや授業の開発に関する教育方法学的研究を進めている。中央教育審議会委員なども務める。『「資質・能力」と学びのメカニズム』『個別最適な学びと協働的な学び』(ともに東洋館出版社)、『個別最適な学びの足場を組む』(教育開発研究所)など著書多数

――「協働的な学び」も、多様性のある社会で生きていくには必要でしょうか。

そうですね。昔に比べて知識への価値観も変わりました。以前は知識をたくさん持つことがいいとされていましたが、現代では膨大な情報にいつでもアクセスできます。そこで重要になってくるのが「協働的な学び」です。

仲間と学び議論し、時には答えのない問題を追究していくことで、知識はアップデートされていきます。多様な他者と対話して最適解、納得解を得ることは民主主義の基本です。協働的な学びを通して行われるそれらの経験が、結果的に今後の産業社会が求めるイノベーション人材の育成にもつながっていくと考えます。

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