
久保勇貴(くぼ・ゆうき)/JAXA宇宙科学研究所研究員。1994年生まれ。2022年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。同年4月国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)入社。人工衛星や探査機など宇宙機の力学や制御工学が専門。さまざまな宇宙探査プロジェクトに携わる。(撮影:今井康一)
コロナ禍、自宅ワンルームでA4ノートパソコンを広げ、黙々と宇宙探査機の軌道シミュレーションを行っていた日々。フィボナッチ数列、ノンホロノミック運動、トレミーの定理、太陽光圧などに触れつつ、宇宙工学の世界と自身の日常を行き来する。「何かが足りない」という焦り、その足りない何かを言葉で満たそうともがく、若き科学者のエッセー。
──4月下旬、アイスペース社の民間初月面着陸失敗は残念でした。
すばらしいチャレンジだったし、今回得られた貴重なデータは必ず次に生かされると思います。宇宙のミッションでは何回も打ち上げて実験することはできない。地上の試験で可能な限り確実なデータは取るわけですが、ある種“ぶっつけ本番”みたいなところはどうしても出てきてしまう。1回目のチャレンジでうまくいくこと自体が、むしろ奇跡なんです。
──計算どおりにはいかない?
実際に飛ばしてみると、ズレや想定外の運動がやっぱり起きたりします。例えばバルブの故障で燃料が噴きっぱなしになり、探査機の姿勢がどんどん回転してしまった場合でも、地上で目視できるのは温度のデータなど基本は数字の羅列で、バルブそのものの確認はできない。計算上はこう動いているはずなのにこの数値だけ異常、みたいなことが起こりえるんです。
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読み頂けます。
ログイン(会員の方はこちら)
無料会員登録
登録は簡単3ステップ
東洋経済のオリジナル記事1,000本以上が読み放題
おすすめ情報をメルマガでお届け
トピックボードAD
有料会員限定記事
連載一覧
連載一覧はこちら
ログインはこちら