子どもの摂食障害、「やせ願望」なくても発症する回避・制限性摂食障害の原因は 脳の萎縮や多臓器に影響する前に早期発見を
──やせ願望がないのに食べられないARFIDとはどのようなものなのでしょうか。
ARFIDにはさまざまなタイプがあります。小学生に多いのが、短い給食時間で急いで食べようとして食物が喉に詰まる・嘔吐するなどの経験をしたり、それらを見たことで不安が高まって恐怖感を抱いてしまい、食べられなくなってしまうタイプです。中にはご飯だけでなく、水分や自分の唾さえも飲み込めず口の外に捨ててしまい、急激な脱水症状で入院するケースもあります。ほかにも、極端な偏食(選択的摂食)抑うつや強迫など精神的な問題が背景にある場合や、うつ状態による食欲低下、何らかの出来事に関連して食べ物を拒否するタイプもあります。
「摂食障害=やせたくてダイエット」というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、さまざまな不安から食べられなくなる子もいるのです。それなのに無理やり食べさせようとすれば、余計苦しい思いをさせてしまいますから、注意が必要です。
摂食障害が子どもの成長や生活に及ぼす影響
──摂食障害は子どもの成長や発達にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
神経性やせ症でもARFIDでも、慢性的な栄養障害になる可能性があり、低血糖の危険性も出てきます。また第2次性徴期に身長が伸びるには、性ホルモンの分泌が必要ですが、慢性的な栄養障害で性ホルモンの分泌が低下すると身長が伸びず、その年齢で期待される身長と比較して低身長のまま大人になる可能性もあります。
そして女の子に多いのが無月経です。無月経は将来的な不妊リスクが高まるほか、骨密度が上がらず骨折しやすくなります。小・中学生の成長期のうちは、身長も体重も増え続けなければいけません。「体重が減っていなければよいだろう」というのは間違いで、体重が現状維持になっていること自体が異常かもしれないと考えてください。

(画像:Satoshi KOHNO / PIXTA)
──社会生活や学校生活への影響はいかがですか?
対人関係の問題が生じることがあります。とくに神経性やせ症の場合は、自分の体に対する認知の歪みがあるため、人と自分を比較してつねに「相手に負けているのではないか」と考え、自信喪失の状態になっています。そのため人と関わるのを避けてしまうこともありますが、適切な治療を受けて標準体重まで戻ると、仲間の中に入って活躍するようになる子もいます。一方、ARFIDの場合はもともと不安が大きいため、人とのコミュニケーションが難しいという子や、対人関係や学校への不安から不登校になってしまう子もいます。
──摂食障害ではどのような治療を行うのでしょうか?
神経性やせ症では、まず何よりも栄養を取って少なくとも標準体重の80%にまで戻すことを第一とします。やせている間は自分が病気であるという認識が持てず、カウンセリングの効果が見込めません。むしろ「せっかく頑張って痩せたのになぜ太らせるのだ」と攻撃的になってしまうため、カウンセリングは再栄養が進んで体力が維持できる状態になってから行います。近年の心理治療では、家族が治療者として子どもを支援する家族療法(FBT: family based treatment)が注目されています。子どもにとっては家族が自分を太らせる敵のように見えるため、治療の道のりは大変ですが、これを乗り越えると本人も家族も非常に状態がよくなるというエビデンスが出ています。