独自ファンドに手応え、鎌倉市教育長・岩岡寛人が「社会との連携」で得た成果 「個性」や「学習特性」を重視した不登校支援も
AI教材「すららドリル」などを活用して個別最適な学習を進める一方、1人1台端末と向き合うだけの授業にならないよう、学びの成果を共有するメディアとして、OS内蔵の電子黒板「ミライタッチ」も市内小中学校の全教室に導入。指導者用デジタル教科書や授業支援ツール「Google Classroom」などもこの電子黒板のみで操作できるので、教員たちからは使いやすいと好評だという。

「そのほか、GIGAスクール担当者を各校に配置するとともにモデル推進校を3校選び、その取り組みを横展開していく仕組みも構築しました。結果、この2年間でずいぶん1人1台端末の活用が進んだと思います。今後の課題は、1人1台端末を使った授業を進化させること。電子黒板も掲示だけでは主体的・対話的な学びを達成できません。もっと“学びのタクト”を子どもに渡していくような授業を研究するフェーズに入ってきています」
最近注目されている教育データの利活用についてはまだ進んでいないというが、どう考えているのだろうか。
「ソフトウェアごとにデータが蓄積されているため、それらを掛け合わせて分析するのが難しい現状があります。また、留学時に教育経済学を学んだ観点から言えば、教育データによってマクロ分析はできますが、子ども一人ひとりに個別最適化するためのミクロ的なデータ活用についてはまだ技術や科学的知見が不足しています。多くの自治体で実現可能なデータ連携や分析のあり方については、今後の技術や研究の進展を見ながら模索していかなければならないと考えています」
「今やるべき」を実現する「鎌倉スクールコラボファンド」
岩岡氏は、「鎌倉スクールコラボファンド」という独自の取り組みも推進してきた。社会に開かれた教育課程を実現するため、ふるさと納税の仕組みを活用して教育委員会の下に設立したガバメントクラウドファンディングだ。
「今、学校にはプログラミングやSDGs(持続可能な開発目標)、PBL(課題解決型学習)など社会要請に基づく教育テーマが大量に流れ込んできていますが、先生方はやりたいと思っても制度などの事情から実現が難しいことも多く、疲弊しています。企業なら新たな取り組みに対して適宜必要な資金が投入されますが、公教育は無償なのでそうはいかない。そこで、未来を見据えた教育の実現に向け、外部の人材や組織と連携するための資金を市内すべての公立小中学校に提供しようというのが、このファンドの狙いです」
学校が要望を出し、教育委員会で承認されればファンドの資金を活用できる。実際、2020年~22年までに約1500万円の調達に成功しており、この資金を基に、複数の学校が大学や企業、NPO法人など外部組織とコラボレーションし、プログラミング授業、STEAM教育、キャリア教育などを実現してきた。
例えば、SDGsをテーマにしたプロジェクト型探究学習を行った小・中学校では、それぞれ慶応大学とNPO法人未来をつかむスタディーズと連携し、課題ごとに知見のある大人を招き、学びを深めることができたという。

(写真:鎌倉市教育委員会提供)