教育の分野で活躍する専門家が選ぶ「学校教育関係者」にお薦めの本10冊 GWを知識とスキルのアップデートに役立てよう

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

教員の業務は授業準備や成績処理のほか、事務作業や課外活動・行事準備、教育委員会への書類作成など多岐にわたるうえ、保護者や同僚・管理職との人間関係でもストレスを抱えやすい。教員のメンタルヘルス不調の主な原因は、この「多忙さ」と「人間関係」にあるとされ、毎年5000人超が精神疾患による休職に追い込まれている。

こうした背景を受けて、20年以上にわたり「教員のサポートグループ(悩める教師を支える会)」で教師の悩みに寄り添ってきた明治大学文学部教授の諸富祥彦氏にも、今回選書をお願いした。諸富氏が選んだのは、『それでも人生にイエスと言う』(著:V.E. フランクル/春秋社)だ。

それでも人生にイエスと言う
『それでも人生にイエスと言う』(春秋社)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

「『それでも人生にイエスと言う』は、オーストリアの神経科医ヴィクトール・フランクルが、ナチスの収容所に捕虜として捕らえられた時の体験をまとめたものです。収容所の捕虜たちは、そこでの絶望的な生活が永遠に続くかのように思い、生きる意欲を失っていきました。

メンタルヘルスを病んでうつ状態にある先生方の多くも同様に自分の絶望的な状況は永遠に続くかのように思えて、前向きな意欲を持ちにくくなっています。

フランクルのこの本は、そんな絶望的な状況にも出口はあること、人生から『イエス』と光りが差し込んでくる時がいつか必ず訪れることを教えてくれます。あなたが人生に絶望しても、人生があなたに絶望することは決してない。どんな時も人生には意味があるのだ、と語りかけ、あなたの魂を鼓舞してくれるのです」

4. 『子どもと心でつながる教師の対話力』(著:渡辺道治)

庄子寛之(しょうじ・ひろゆき)
元東京都公立小学校指導教諭
(写真:庄子氏提供)

「教師の多忙感は、年々ひどくなっているように感じます」と話すのは、3月まで都内の公立小学校に勤務していた庄子寛之氏だ。かつて庄子氏は学級担任をする傍ら、女子ラクロス日本代表監督を務め、心理学を学ぶために大学院に通い、2人の子育てにも奮闘するという超多忙な日々を送っていたが、当時もこれまでも基本的に定時で帰っていたという。

そのノウハウを学ぼうと、働き方改革研修の講師依頼が絶えない庄子氏だが、「教師も時短になるハウツー本を買ってしまう傾向にありますし、実際そういう本ばかりが目立つ所に並んでいるように感じます。しかし、教師はカウンセラーであり、コーチであるべきだと考えます」と話す。

子どもと心でつながる教師の対話力
『子どもと心でつながる教師の対話力』(学陽書房)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

そんな庄子氏が薦めるのが、『子どもと心でつながる教師の対話力』(著:渡辺道治/学陽書房)だ。

「この本では、渡辺先生が日常で行っている話し方・聞き方が思う存分に書かれています。すぐにはできないかもしれません。しかし、こういう対話力こそが、教師として最も大切なことだと思います。話し方や聞き方は、その前の『あり方』がとても大切になってきます。教師として自分が今何を大切にしなくてはいけないのかを、改めて考えさせてくれる本です」

子どもたちが成長していく中で、教師の「言葉」が与える影響は非常に大きい。子どもと豊かな関係を築くにはどうしたらいいのか――。忙しさで忘れがちな教師本来のあり方を思い出させてくれる一冊ではないだろうか。

5. 『思考と言語 新訳版』(著:レフ・セミョノヴィチ ヴィゴツキー)

五木田洋平(ごきた・ようへい)
HILLOCK(ヒロック)初等部 カリキュラムディレクター
(撮影:梅谷秀司)

何より、子ども一人ひとりを理解することは、教師が日々の教育活動を展開するうえでの基盤となる。

2022年4月、東京・世田谷区に開校したオルタナティブスクールのHILLOCK(以下、ヒロック)初等部では、普段の子どもたちの見取りを大切に、その子のことを理解したうえで必要なことを必要なタイミングで学べるカリキュラムを構築している。教科別の時間割はなく、自由進度学習を基本に探究学習などを取り入れているのはそのためだ。

「多くの教育書は『こう教えるべきだ』という手法論と『教育はこうあるべきだ』という目的論に二分されています。どちらも欠かせない視点ではあるけれど、あれもこれも教えなくてはいけない現状が変わらなかったり、子どもに、そして大人に、うまく伝わらないことがあるのではないでしょうか」と話すのは、ヒロックのカリキュラムディレクターを務める五木田洋平氏だ。

思考と言語 新訳版
『思考と言語 新訳版』(新読書社)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

こうした中、五木田氏が推薦するのは『思考と言語 新訳版』(著:レフ・セミョノヴィチ ヴィゴツキー/新読書社)である。思考と言葉に関する心理学的研究の名著で、理論的・批判的研究に目を向けながら、児童期における言葉の意味の発達の基本的道程の解明と、子どもの科学的概念と自然発生的概念の発達の比較研究を行っている。

「ヴィゴツキーをはじめとする認知心理学の先達は『子どもとはどういった存在なのか』『発達とはどのようなものなのか』という『わたし』や『あなた』を理解するための視点を与えてくれます。それは『人間とはどういった存在なのか』『人と人が共に学ぶとはどういうことなのか』といった大きな問いを考える第一歩です。

これらの問いを意識することで、先の手法論も目的論も深い意味を持ってきますし、学校の意義が揺らぐ現代にこそ必要な視点に思えます。 目の前の子どもも、同僚も、そして自分も、誰もが学習者です。さまざまな立場の人と共に成長する関係が築けるといいですね」

次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事