デジタル・シティズンシップ プラス(著:坂本旬ほか)
GIGAスクール構想によって小中学校に整備された「1人1台端末」。今年、配布から2年目を迎えて学校間、地域間で活用格差が広がる中、戸惑う学校と保護者のために具体的な授業例と実践のポイントを紹介したのが『デジタル・シティズンシップ プラス やってみよう!創ろう!善きデジタル市民への学び』(著:坂本旬、豊福晋平、今度珠美、林一真、平井聡一郎、芳賀高洋ほか/大月書店)だ。
テクノロジーを味方につけて積極的に発信し、豊かな民主主義を実現するデジタル市民への学びを目指すデジタル・シティズンシップ教育は、従来の情報モラルに代わる教育として広まりつつある。東洋経済が2022年に2回実施したデジタル・シティズンシップをテーマとしたウェビナーも大盛況だったが、次期新学習指導要領に盛り込まれるともいわれており、早い段階で読んでおきたい一冊だ。
教室マルトリートメント(著:川上康則)
教室マルトリートメントという言葉をご存じだろうか。教室で行われる子どもの心を傷つけるような不適切な指導を示す、著者の川上康則氏の造語だ。
『教室マルトリートメント』(著:川上康則/東洋館出版社)では、教室内で行われる指導のうち、体罰やハラスメントのような違法行為として認識されたものではないけれど、日常的に見られ、子どもたちの心を知らず知らずのうちに傷つけているような「適切でない指導」を取り上げている。
事情を踏まえない頭ごなしの叱責、子どもたちを萎縮させるほどの威圧的・高圧的な指導、さらには褒めるべきときに褒めない、「子どもになめられるから」という理由で笑顔を見せないなど、教室内を重い空気感で包んでしまう指導など、つねに行いたい教師としての自己検証のやり方や教室マルトリートメントに陥らないための予防法などを紹介している。
〈叱る依存〉がとまらない(著:村中直人)
「叱ること」には依存性があり、叱らずにはいられないのには訳がある。
その理由は、脳の「報酬系回路」にあるというが、人は「叱りたい」欲求とどう向き合えばいいのか? 臨床心理士である著者の村中直人氏がまとめた一冊だ。
つい叱ってしまう、その後に自己嫌悪に陥りながらもまた叱ってしまう。どうすれば叱らずに済むのかと悩む。そんな経験がある人は多いに違いない。『〈叱る依存〉がとまらない』(著:村中直人/紀伊國屋書店)では、「叱る」を科学しながら、叱る依存に陥らないための方法を詳しく解説してくれている。
不親切教師のススメ(著:松尾英明)
「学校には度が過ぎて『親切すぎる』『丁寧すぎる』対応や習慣が多い。これこそが子どもたちの主体性を奪っている」。こう指摘するのは『不親切教師のススメ』(著:松尾英明/さくら社)の著者で千葉県公立小学校教員の松尾英明氏だ。
教室の後方に張られた習字の掲示、廊下に張られた先生お手製の掲示物、ロッカーに貼られた名前シールなど、どれも学校では当たり前の光景だが、こうした親切な振る舞いが先生はもとより子どもも、保護者も苦しめているという。
本書では、そもそも教師はなぜやたらと親切になってしまうのか、原因を探りながら、教師があえて“不親切”になることで子どもたちの主体性を伸ばすことができる理由を解説している。当たり前だと思っていた学校の常識、自分の日頃の仕事を改めて振り返るきっかけを与えてくれる一冊だ。
子どもたちに民主主義を教えよう(著:工藤勇一、苫野一徳)
学校の当たり前を見直そうという動きは、全国で加速している。宿題や定期テスト、固定担任制、そして今年とくに話題になったといえば校則ではないだろうか。
『子どもたちに民主主義を教えよう 対立から合意を導く力を育む』(著:工藤勇一、苫野一徳/あさま社)は、元麹町中学校の校長・工藤勇一氏と教育の本質を問い続けてきた哲学者・苫野一徳氏の共著。いじめや理不尽な校則、不登校、体罰、心の教育、多数者の専制、学級王国など、今学校が抱える問題を分析しながら何ができるか、どこから変えていけるか、哲学と実践をつなぐ興味深い一冊になっている。
キーワードとなっているのは対話の力、そして民主主義教育だ。学校教育において合意形成に至るプロセスを経験させることが、日本社会のアップデートにもつながるという。
ジェネレーター 学びと活動の生成(著:市川力、井庭崇)
2020年度に小学校、21年度に中学校、22年度に高校でスタートした新学習指導要領。知識・技能だけでなく思考力・判断力・表現力、さらには学んだことをどう生かすのかという学びに向かう姿勢を育むことを目指している。そこで注目されているのが探究学習だ。
この探究学習をより有意義なものにする「ジェネレーター」という役割を提案しているのが、『ジェネレーター 学びと活動の生成』(著:市川力、井庭崇/学事出版)だ。
教えるのではなくファシリテーターとなるなど、探究学習において先生がどういう役割を果たすべきかの議論はかねて盛んに行われているが、教員がジェネレーターとなることで「新たな学びと活動をジェネレート=生成する」ことができるという。議論の内側に踏み込み、共に考えるジェネレーターになるには、何が必要なのか。まさに新たな視点を与えてくれる一冊である。
メタ認知 あなたの頭はもっとよくなる(著:三宮真智子)
新学習指導要領における新たな学力観「学びに向かう力、人間性等」の一部とされる「メタ認知」。この「メタ認知」を子どもたちに意識させることに課題を感じている教員は少なくないという。
「メタ認知」とは、自分の頭の中にいて冷静で客観的な判断をしてくれる「もう一人の自分」というイメージを描くとわかりやすいかもしれない。この「もう一人の自分」が「どうせできない」といったメンタルブロックや、いつも繰り返してしまう過ち、考え方の癖などを克服できれば、脳のパフォーマンスを最大限に発揮させることができるという。
認知心理学、教育心理学の専門家がより賢い頭の使い方を指南する『メタ認知 あなたの頭はもっとよくなる』(著:三宮真智子/中央公論新社)は、子どもたちはもちろん、大人も効率的に学習するヒントが得られるに違いない。
学校の中の発達障害(著:本田秀夫)
近年、学校において「発達障害」とされる子の割合が急増している。特別支援教育を選ぶ子どもも増えていて、これまでに経験してこなかった対応に学校も先生も追われている。
小学校以降の発達障害の子の場合、学校生活の中で経験するストレスなどが要因となって不登校などの問題が生じることも少なくない。発達障害の支援で最も重要なことは、こうした2次障害を予防すること、さらに2次障害が生じたときにその悪化を防ぐことがポイントだという。
「そのためには学校が、子どもたちにとって楽しく学べる場である必要がある」と言うのは臨床経験30年以上の発達障害の専門家である本田秀夫氏だ。本田氏が書いた『学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(著:本田秀夫/SBクリエイティブ)では、発達障害の子は学校とどう折り合いをつけていけばいいのかについて、じっくりと考えている。
みんなの「今」を幸せにする学校(著:遠藤洋路)
前例にとらわれず大胆な改革を進めている自治体には、必ず魅力的なリーダーがいる。そんな自治体の1つに熊本市がある。新型コロナウイルスの感染拡大当初、いち早くオンライン授業に取り組んだことで周囲を驚かせた熊本市は、その後もICT活用を発展させるだけでなく、子どもが参画する校則改革や教員の働き方改革など矢継ぎ早に施策を講じている。
熊本市の教育を率いるリーダー、教育長の遠藤洋路氏が手がける初の著書『みんなの「今」を幸せにする学校 不確かな時代に確かな学びをつくる』(著:遠藤洋路/時事通信社)は、将来のために子どもに我慢や無理をさせることが多かった日本の教育に疑問を呈する一冊だ。
みんなが「今」幸せになる学校づくりが本書のテーマ。子どもはもちろん保護者、教職員、教育委員会職員、地域の人など教育に携わるすべての人の「今の幸せ」に視点を移せば、おのずと現在の学校教育、子どもの将来の姿も変わっていくという。
テクノロジーが予測する未来(著:伊藤穰一)
未来を生きる子どもたちに必要な資質と能力とは何なのか。それらを育む立場にあるのなら、この先の未来がどう変わっていくのかを知っておくことは大前提といえる。
Web3、メタバース、NFT……これら未来を変える最先端のテクノロジーについて、どのような技術なのか、私たちの社会や経済、生活をどう変えるのか、詳しく説明はできるだろうか。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)でメディアラボ所長を務め、デジタルアーキテクト、ベンチャーキャピタリスト、起業家として活動する伊藤穰一氏が書いた『テクノロジーが予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』(著:伊藤穰一/SBクリエイティブ)には、最先端テクノロジーがもたらす驚きの未来が記されている。
教育について書かれた章もあり、基本的な知識を得ながらその特徴や来るべき変革について丸ごと学べる一冊といえる。
(注記のない写真:Ushico / PIXTA)