サムスン「メモリー減産」でも消えない2つの不安 業績低迷一時的だが、長期的な展望も微妙

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サムスン電子にとってはこうしたライバル社の存在に加え、国際政治も大きな変数といわれる。米中関係だ。

アメリカ政府はアメリカに半導体生産施設を建築する場合、施設だけで390億ドル(約5兆2122億円)規模の投資を行うとする「半導体法」により、世界有数の半導体企業を誘致しようとしている。

ところが、2月28日、アメリカ商務省が発表した「半導体法補助金審査基準」の内容に、韓国では「毒となる条項が含まれる」と反発する声が聞かれた。

主に3つ。まず、機密情報が漏れる可能性があるアメリカの安保機関の工場への接近許可、次に、補助金の75%を超えない範囲で超過利益はアメリカが回収するとし、最後に補助金を受けた企業は今後10年間の生産能力拡大を禁止するというものだ。サムスン電子は、中国・西安市の工場でNANDフラッシュメモリーの30〜40%を生産しており、SKハイニックスは無錫市でDRAMの半分を生産している。

アメリカの基準は変数ではなく、常数

TSMCはアメリカ商務省が提示した基準をめぐり協議中と報じられた。半導体業界のOBは言う。

「アメリカで工場を建設するのであれば、補助金は必要で、そうでなければこの事業は不可能です。ですから、何を求めて、どう対処するか、方法を模索しなくてはいけなくなった。もはや、アメリカの基準は変数ではなく、常数になりました。アメリカは半導体市場での存在力を高めるために、韓国、台湾、日本を含めた4カ国で中国を供給網から排除しようとしていますが、韓国の場合は対輸出では中国が1番の顧客ですから、米中に挟まれて頭が痛い」

サムスン電子もただ手をこまぬいているわけではない。2042年にまでに300兆ウォン(約30兆円)を投資し、韓国の710平方㍍の敷地に先端半導体、システム半導体の製造工事用を5つ建築することを明らかにしている。前出の記者は「この工場はこれから30年間の稼ぎ頭になる」と表現していた。 

生き馬の目を抜く半導体事業。次はどこが覇者になるのか。半導体事業で再起をかける日本も対岸の火事ではない。

菅野 朋子 ノンフィクションライター

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かんの ともこ / Tomoko Kanno

1963年生まれ。中央大学卒業。出版社勤務、『週刊文春』の記者を経て、現在フリー。ソウル在住。主な著書に『好きになってはいけない国』(文藝春秋)、『韓国窃盗ビジネスを追え』(新潮社)がある。

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