「ICTを活用した障害者支援」に尽力してきた医師が語る「学校教育に必要なこと」 多分野をつなぐ三宅琢「大事なのは交ぜること」

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「産業保健」や「特別支援教育」で蓄積された知見の活用を

三宅氏はROCKETのプロジェクトリーダーだった福本理恵氏と3年前に会社を立ち上げ、個別最適な学びと就労をサポートする事業にも携わる。また、学校で出前授業をしたり、沖縄県の教員とメンタルヘルスの課題について対話の場を持ったりと、学校との関わりも増えているが、学校現場のウェルビーイング向上についてはどう考えているのか。

横浜創英中学・高等学校で授業を行う三宅氏
(写真:三宅琢氏提供)

「やはりポイントは、学校の中で閉じないこと。各校長が学校間交流を進めると同時に、違う分野の話も聞いて参考になることを実践していく。そして労働時間を適正化し、教員のメンタルヘルスケアも進めることが必要でしょう。とくに今課題となっているメンタルの不調は、産業保健の知見の導入で確実に減っていくはず。教員自身が自分のケアと体調管理の方法を知ること、管理職が上手な声がけをして不調の予兆を見逃さないこと、そして休職者が復職しやすい仕組みをつくることが重要です」

また、個性に合った学び方を認めることが、子どもたちのウェルビーイングにつながっていくと強調する。

「子どもたちは、きっと成長の過程で自己肯定感を削られてしまうからウェルビーイングではなくなっていくので、自分の素質に自信が湧くような学校教育が必要です。これまでの学校は病院の構造と同様に管理者本位でしたが、子どもたちに学び方の裁量権を与えてあげるのです。ノートを取る子もいれば、録音や録画を活用して学ぶ子もいるといった個別最適な学びは、1人1台のGIGA端末があるのですから可能なはずです」

しかし、教育現場でのICT機器の活用に対する理解は進んでいるとは言いがたい。三宅氏は、「合理的配慮の面でも、先生はICT機器でどんなケアができるか知らず、子どもたちもICT機器を使ってよいという権利さえ知らない状態」だと指摘する。そのためICT機器の安全運用のノウハウもセットにし、教員と子ども双方のリテラシーを上げることが課題だという。

「実は、ICT機器を活用した個別最適な学びの知見は特別支援教育の場に蓄積されており、それを通常学級に生かせば現場は一気に変わると思います。全員がGIGA端末を使ってどんな学び方をしてもよいとなれば、意欲的に学び始める子はたくさん出てくるはず。そのためにも子どもの多様性を理解し、個別最適な学び方をアセスメントするスキルを教員が持つべきで、評価の新たなフレームも構築する必要があるでしょう。当然それだけの改革には教員のメンタルケアや働きやすい環境設定も両輪で行わなければいけません」

三宅氏はこれまで異分野の人々をつなげてきたが、インクルーシブ教育についても「大事なのは交ぜること」と言い、学校の中はもちろん、地域と教育が結び付いていくことが重要だと語る。

「戦後の日本は、通常学級と特別支援学級を分けたことにより、通常学級で育った子が社会に出たときに障害者にどう声をかければいいのかわからないという状況を生み出しました。しかし、江戸時代などはまさに多様性にあふれSDGsの考え方が存在していた社会でしたし、日本は本来、交ざり合うことに理解がある国。西欧とは異なり、個のウェルビーイングと集団のウェルビーイングの調和がベースになっている国民性なのですから、今こそ地域の高齢者たちと対話し、日本の文化や価値観のよさを再解釈して次世代の教育を考えるべきではないでしょうか」

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