「ICTを活用した障害者支援」に尽力してきた医師が語る「学校教育に必要なこと」 多分野をつなぐ三宅琢「大事なのは交ぜること」

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分野横断的な対話で課題解決を図る「社会医」の仕事とは?

眼科医、産業医、障害者支援と活動が広がる中で、三宅氏は「近年の問題の多くの要因は同じだということに気づいた」と話す。学校での不登校やいじめ、企業でのハラスメント、視覚障害者の引きこもり、老人ホームでの虐待など、枠組みが違うだけで問題の要因は同じだという。

「共通して何らかの制約を受けた空間の中で上下関係があり、バランスが崩れていくんです。これは分野横断的に見てきたからこそ、わかったこと。そこで、ある分野の解決策を応用すれば、別の分野の課題を解決できるのではないかと考え、異分野の人たちが対話する場をつくることにしました。私はファシリテートするだけですが、成功事例が共有されると実際に課題は解決していきます。どの分野も適切な情報にたどり着けないがために解決できない問題があまりにも多い。しかし情報をつなぎ合わせれば“情報障害”は改善し、解決策が見えてくるのです」

海外では患者の課題解決のために社会参加の機会を提供するなどの“社会的処方”を行う仕事があることから、現在は「社会医」と称してこの活動を展開する。

代表的な事例は、2017年にオープンした神戸アイセンター病院の仕事だ。エントランスの一角となる「ビジョンパーク」のデザインのコンセプト設計を任された。

「目の病気に特化した総合病院の建設に当たり、失明宣告を受けた患者さんが元気になる空間をつくってほしいという依頼でした。そこで、患者さんや医師などの当事者と建築家、音響デザイナー、ブックディレクター、全盲のクライミングウォールの選手などを集め、対話の機会を設けることにしたのです」

対話を始めると、「なぜ人は病院へ行くと調子が悪くなるのか」という問いが出てきた。すると、建築家が「病院建築は牢屋の構造と同じですからね」と指摘。病院の目的は事故なく管理運営をすることにあり、管理者のための空間になっているから患者は元気になれないというのである。

「そこで当事者の患者さんに意見を聞くと、想定外のアイデアがたくさん出て、結果的に手すりがなく段差がたくさんある建物ができました。バリアフリーの安全な建物と外の環境とのギャップが大きすぎるために、視覚障害者が外出しにくくなっている現状から、あえてビジョンパークも外界に近い空間にしたのです」

神戸アイセンターのビジョンパーク
(撮影:千葉正人)

ビジョンパークでは今、患者たちがおしゃべりや読書、運動などをして楽しく過ごしているそうだ。しかしオープンから5年経ってわかったことは、医療者がいちばん喜んでくれていることだという。

「失明宣告をする医療者も苦しかったのです。『ビジョンパークがあるから大丈夫』と医師も患者も思えるようになってみんながハッピーという状態、つまりウェルビーイング向上につながった事例です」

現在、日本でもウェルビーイング向上が推進されているが、ウェルビーイングとは「簡単に言えば『調子がいい状態』」(三宅氏)だ。人の価値観や状況は多様であり、「みんなの調子がいい状態」をつくるには、それぞれの権利主張を聞きながら対立構造を調整し、仕組みをアップデートしていくことが必要だという。「だからこそ、当事者を入れてみんなで話すことが大切。この解決手法はどの領域でも応用できる」と三宅氏は確信している。

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