[Book Review 今週のラインナップ]
・『民主主義の経済学 社会変革のための思考法』
・『綿の帝国 グローバル資本主義はいかに生まれたか』
・『14歳からのニュートン超絵解本 そのとき生物の体に何がおきるのか 死の科学』
・『樋口一葉赤貧日記』
評者・慶応大学教授 坂井豊貴
男性に参政権を限定していた社会が、女性にも参政権を拡大すると、有権者の構成の変化によって、子どもへの政府支出は増えるのだろうか。直観的にはイエスだが、この問いの検証は難しい。女性に参政権を拡大する社会は、もとから子どもへの配慮が高いのかもしれない。であれば参政権の拡大は、子どもへの政府支出を増やす原因ではない。
どうすれば両者の因果関係は検証できるのか。従来その把握は難しかったが、近年は検証の方法論が確立してきた。この例だと政治学者ミラーが用いた「差の差法」が有効だ。
政策効果の分析者が用いる緻密な分析手法や発想
ミラーは米国で、隣接する比較的よく似た州の一方が女性への参政権を認めるようになり、もう一方が認めないままの状況を比較した。認めた州では子どもへの政府支出が有意に増加し、認めなかった州ではそれほどの増加はなかった。増加分という過去と未来の差について、両州では差があったわけだ。この差の存在が因果関係の存在を示す証しとなる。ミラーによると、女性への参政権拡大は子どもの死亡率を下げる効果まであるという。有権者の構成が変わると政策は変わるのだ。
本書ではほかにも多くの政治経済学の研究成果が提示される。例えば「再選禁止のルールによって次の選挙に出られない市長は、汚職をする確率が上がる」というブラジルでの分析や、「同じ民主制でも、大統領制のほうが議会制より政府支出が小さくなる」といった国際比較だ。これらは説明されるとなるほどと思うが、緻密に分析せねばわからない。エビデンスに基づく制度設計や政策決定は、このような分析から生まれるものだ。
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読み頂けます。
登録は簡単3ステップ
東洋経済のオリジナル記事1,000本以上が読み放題
おすすめ情報をメルマガでお届け