リカレント教育とは?
「リカレント教育」の「リカレント(recurrent)」とは、「繰り返す」「循環する」という意味。リカレント教育とは、学校教育からいったん離れて社会に出た後も、自身の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すことです。
リカレント教育は、1973年にOECD(経済協力開発機構)がスウェーデンの施策をもとに「リカレント教育—生涯学習のための戦略」についての報告書を刊行したことをきっかけに、教育政策論として日本をはじめ世界各国に広まりました。
社会人になってから仕事に関する専門的な知識やスキルを学ぶため、日本では「社会人の学び直し」とも呼ばれます。
リカレント教育の対象者
リカレント教育の対象者は、義務教育や高校・専門学校・大学などで教育を修めた「社会人」です。つまり、「社会人として現在働いている人」や「社会人として働いた経験のある人」も対象となります。また、「何歳から何歳まで」といった年齢制限もありません。
勤務先や家族の同意が得られれば、本人にとってよいタイミングでリカレント教育を受けることができます。
リカレント教育の重要性
超高齢化社会となり「人生100年時代」といわれる現代の日本。伝統的な「教育→雇用→退職後」という3ステージの人生モデルから、組織にとらわれない働き方や複数の仕事を組み合わせて働く働き方など、マルチステージの人生モデルへと変わってきています。
さらに、2030年ごろには、IoTやビッグデータ、人工知能などの技術革新がいっそう進展し、「Society5.0」、つまり現実空間と仮想空間が一体となり、さまざまな社会課題の解決と経済発展を実現する社会の到来が予想されています。
こうした背景を受け、誰もが何歳になっても学び直し活躍することができる社会の実現に向け、関係省庁が連携してリカレント教育を推進し、転職や復職、起業などを円滑に成し遂げられる社会を構築していく重要性が叫ばれています。
リカレント教育のメリット・デメリット
リカレント教育のメリット
内閣府が行った、リカレント教育を受けた人と受けていない人の動向を数年間にわたって追跡調査した結果によると、リカレント教育を受けた人は、受けていない人に比べて年収が10万~16万円近く上昇する効果が見られました。
また、職業に就いていない人がリカレント教育を受けた場合は、受けていない人と比べて就業する確率が10~14%程度上昇する効果が見られました。
リカレント教育で時代に即した知識やスキルを習得することで、社会に必要とされる人材であり続けられるといえるでしょう。
リカレント教育のデメリット
本人がリカレント教育を受けたいと思っても、日本は労働時間が長い傾向にあり、学習時間の確保が難しいことがあります。
また、大学への再入学を行う場合は長期間の休暇取得が必要になることもありますが、リカレント教育のための長期休暇制度が整備された企業は多いとはいえないのが現状です。リカレント教育そのものというよりも、リカレント教育を取り巻く環境が課題となっているケースがあります。
生涯学習とリカレント教育の違い
リカレント教育も生涯学習も、「学ぶ」という点では同じですが、学ぶ「目的」が異なります。リカレント教育は、「仕事に生かす」ことが目的なのに対し、生涯学習は「より豊かな人生を送る」ことが目的とされています。
リカレント教育では、「外国語」、MBAや社会保険労務士など「資格取得系科目」、経営や法律、会計など「ビジネス系科目」、「プログラミングスキル」をはじめ、働くことを前提に仕事に生かせる知識を学びます。
一方、生涯学習では仕事に生かせる知識だけではなく、学校教育や社会教育、文化活動、スポーツ活動、ボランティア活動や趣味など「生きがい」に通じる内容も学習の対象に含まれます。
リカレント教育と大学
社会人が大学で学び直す方法として一般的なのは、リカレント教育プログラムのある大学で、自分に合う講座を探し受講すること。文部科学省事業として開設・運営しているWebサイト「マナパス」で探すことができます。
また、2015年に、社会人の職業に必要な能力の向上を図る機会の拡大を目的として、大学等における社会人や企業等のニーズに応じた実践的・専門的なプログラムを「職業実践力育成プログラム」(BP)として文部科学大臣が認定する制度が創設されました。
地方創生、医療・介護、女性活躍など毎年新たなプログラムが認定され、一部のプログラムの受講者や企業に対し、受講料などの一部が支給される制度もあります。
リカレント教育と企業・社会人
リカレント教育は、企業にとっては、導入による従業員のスキルや能力のアップにより生産性や競争力、従業員の定着率、企業価値などを高める効果が期待できます。
その一方で、導入に当たり
・ 休暇制度や評価制度の見直し
・ 教育環境やシステムの整備
などが必要なため、リカレント教育を導入している企業はまだまだ少ないのが現状です。
専門調査会「選択する未来2.0」の報告によると、2020年における企業従業員のリカレント教育実施割合は15%前後。企業のリカレント教育においては、働きながら学びの時間を確保できる仕組みづくりや、休職や退職をする場合の復職支援といった環境整備をいかに進めるかが課題です。
リカレント教育とシニア
高齢者の就業率は2004年以降上昇の一途をたどっており、2020年には65歳以上の就業率が25.1%となりました。定年以降もシニア世代を継続雇用する企業も増えています。
年齢を重ねると、体力が必要な仕事や長時間働かなくてはならない仕事を継続することが困難になりがちです。
だからこそ、シニアもリカレント教育を受け、時代に合わせた仕事のスキルを得ることが求められています。これまでに蓄積した知識や体験と関連づけたり、目の前の業務の課題解決を行ったりするための学びが有効であると考えられています。
リカレント教育と補助金
厚生労働省では、働く人の主体的な学びへの支援として給付金制度を設けています。
・教育訓練給付金
対象講座を修了した場合に、自ら負担した受講費用の20~70%の支給が受けられます。
・高等職業訓練促進給付金
ひとり親の人が看護師などの国家資格やデジタル分野の民間資格の取得のために修学する際、月10万円の支給が受けられます。居住する都道府県・市区町村で相談を受け付けています。
・キャリアコンサルティング
在職中の人を対象に、キャリア形成サポートセンターでキャリアコンサルタントに無料で今後のキャリアなどについて相談することができます。
・公的職業訓練(ハロートレーニング)
希望する仕事に就くために必要な職業スキルや知識などを無料で習得することができます。雇用保険の対象となっていない方でも、一定の条件の下で、月額10万円の支給を受けながら訓練を受けることができます。
まとめ
リカレント教育は、急速に変化する社会情勢や多様化する働き方に対応する手法として注目されており、国も助成金・補助金を出すなど「人への投資」を支援しています。
企業の施策に積極的に取り入れていくことに加え、働く人たちも、自分のライフスタイルに合わせて新たな知識やスキルを身に付ける学び直しを行うことが、働き方や生き方の選択肢の増加につながるでしょう。
明治大学卒業後、出版社、制作会社勤務を経てフリーに。教育、子育て、PTAなどの分野で取材、執筆、企画、編集を行う。教育分野では、ICT教育、教職員の働き方、授業実践事例や学校づくり等をテーマに取材。著書に「PTA広報誌づくりがウソのように楽しくラクになる本」「卒対を楽しくラクに乗り切る本」(共に厚有出版)、執筆協力に「学校ってなんだろう」(学事出版)などがある。