熱血になりがち、教師の魅力を見失うほど多忙な先生に必要な「塩対応」の技術 生徒・保護者・同僚との関係、仕事見直すヒント
「いろいろなことを相談してくれていた生徒が、ある時から突然話しかけてこなくなったことがありました。『どうしたの?』と尋ねても『先生には関係ない』と言う。私たちは学校でしか生徒を見ていませんが、彼らには家庭など学校以外での生活がある。その時のコンディションで気持ちも変わります。つい教師は熱血になって『こんなに生徒のことを思っているのに、どうしてわかってくれないの』と考えがちですが、ときにはブレーキを踏むことも大事です。生徒を観察して、踏み込むべきか、抑えるべきか、背中を押すのか、引き留めるのか、対応のさじ加減を変える。生徒の持ち味をうまく出しながら、自分で決断できるようになるよう、教師も適度な力で対応することがウィンウィンだと考えるようになりました」
ケース1:生徒が「先生、相談があります」と言ってきた
×何でも相談に乗るよ!と意気込んで話を聞く
→最初は寄り添うつもりでも、いつしか「寄りかかられて」しまう
○相談事10のうち、教師が聞くのは2までと線を引く
ケース2:生徒が自分で考えずに教師に指示を求めてくる
×生徒から聞かれた質問にはまじめに答える
→教師が何でもまじめに答えていては「指示待ち生徒」にしてしまう
○「あなたはどう思う?」「どうしたらよいと思う?」と聞き返す など
生徒のためにやっていることは、本当に生徒のためになっているのか。100%の力を投じることは本当に正しいことなのか、教師の自己満足なのではないか……そんな疑問に向き合った結果だった。全力ではなく、ちょっと引いた「塩対応」にすることで、逆に生徒には「寄り添ってもらえた」と感じられ信頼関係が構築できる。教師も「塩対応」を心がけることで、無駄に時間を取られることがなく、本来やるべきことに集中できるということだろう。
保護者や同僚にも「塩対応」が必要な理由
その後、峯岸氏は毎年東大に合格者を出すような都立中高一貫教育校に異動となった。
「話をする時には全員がこっちを注視し、紹介した本は次の日には、ほぼみんな読んでいる。自分自身が生徒に与える影響が逆に恐ろしく、最初は前任校とのあまりの違いに生徒との距離感がつかめませんでした。しかし2年目に中学1年生の担任を任されてからは、商業高校で身に付けた対応術を生かしながら、適切な距離感で対応することができるようになっていったのです」
現在は、校務分掌の生活指導の主任で、担任を持っていないために生徒との距離感をより冷静に考えられる立場にあるという。こうした「塩対応」は、保護者対応にも必要だと峯岸氏は説く。
「保護者にもいろいろな人がいます。会話を録音して都合のいい部分だけを切り取る、文書での回答を求めてくるなどなど。逆に教師に依存する保護者もいます。何かにつけて『先生どうすればいいですか』と、こちらに判断を委ねる。不都合が起きれば『あの時、先生がそう言ったじゃないですか』と、教師の責任にされてしまいます。どういうタイプの保護者か見極めてから、対応したほうがいい。また携帯電話の番号は教えないなど、プライベートとの一線を画するべきです」
学校などに理不尽な要求や苦情を繰り返すモンスターペアレンツは、特定の保護者に限られると思われがちたが、今はちょっとしたことで誰もがモンスターペアレンツになる可能性があるという。保護者対応は、一歩間違えるとかえって時間を要することから、面倒だと思ったときほど時間とパワーを使って丁寧に対応することもポイントだ。