初任者教員が直面する、学校という職場ならではの「2つのハードル」 初めての4月をどう迎え、5月をどう乗り切るか
「説明会で立ち見が出るほど、教員を志す学生は多くいました。私が最初に変化を感じ出したのは、夜遅くまで学校に残らず、スッと帰る教育実習生が増え始めた頃でしょうか。これは資格を取っておくための実習であって、本気で教員を目指しているわけではないのだなと思いました」
そうした若者の姿に、「えっ、もう帰るの?自分たちの頃とは違うんだね」と驚くベテラン教員もいたという。だがその感覚の差こそが、今の学校現場に必要なものを示しているかもしれない。
「過去にはいわゆる軍隊のような『右にならえ』の教育が求められていました。そのおかげで戦後復興や高度成長期が支えられた面もあるでしょうが、すでにそうした時代ではありません。多様性や寛容さが足りない教育のあり方に苦しんでいる子どももいます。そして若手教員は、旧世代の教員よりもずっと今の子どもに近い存在です。彼らの育成にも、もっと多様性と寛容さを持って当たる必要があるのではないでしょうか」
初任者教員の着任校が決定するのは3月になってから。3月末にバタバタと転居するケースも多いだろう。前川氏はこの「直前までどうなるかわからない」状況にも苦言を呈しながら、初任者教員には、今はゆっくりしてほしいと言葉を継ぐ。
「仕事が始まると忙しくなるので、それまでは親孝行をしたり学生時代の持ち物の断捨離をしたりする貴重な時間だと考えてください。そして着任先がわかったら、自治体や学校の『推し活』をするつもりでどんどん詳しくなってください。情報収集をしたり現地に足を運んでみたり、接した時間に比例して着任先への愛着が湧くでしょう」
始業式を迎えた後、おそらく4月は忙しさに追われていつの間にか過ぎ去る。その間に少しずつ疲れがたまって、5月の連休明け頃、つらさの波がどっときてしまう人も多い。
「不慣れな環境で疲れてしまうのは、子どもたちもきっと一緒のはず。初任者教員の皆さんは、子どもたちにも自分にも少し寛容になるといいと思います。学校に来られただけでまずはOK、また夏休みを目指して、無理せず一歩ずつ頑張ろう――。それぐらいの気持ちで大丈夫ですよ」
悩みを抱えること自体は決して悪いことではないし、悩む原因は初任者教員だけにあるとも限らない。前川氏はそう繰り返す。
「今は学校も過渡期にあります。教育現場に入れば、疑問を感じることがたくさんあるでしょう。初任者教員が変われば学校が変わるし、学校が変われば社会が変わる。まずは今の『当たり前』に適応しつつ、でもその『当たり前』がすべてではないという視点と、いつか自分がそれを変えていくんだという強い思いを持ち続けてほしいと思います」
(文:鈴木絢子、注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら