初任者教員が直面する、学校という職場ならではの「2つのハードル」 初めての4月をどう迎え、5月をどう乗り切るか

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あるいは、保護者からのクレームにどう対処すればいいのか。これについては「相手がどうしたいかを知ることが重要」だという。

「なぜクレームを入れてくるのか、相手がどんな考えを持っているのか。そこを掘り下げれば、『子どもをよりよく育てたい』など、互いに一致できる部分が必ず出てくるはずです。保護者との共通理解ができれば、若くても信頼関係を築くことができます」

また、初任者教員ほど「うまくいかないときに子どものせいにしがち」だとして、陥りやすい思考にも注意を促す。

「『わかってくれない子どもが悪い』ではなく、自分の授業に問題があるのかもしれないと考えてほしい。それができる人、つまり自分の力不足を理解して客観視できる人は、自らを伸ばしていく才能がある人だと思います」

初任者教員の育成は、子どもの教育と通じる部分が多い

「若手教員はみんな頑張っているし、つらくてもそれをあまり見せない」と語る前川氏。初任者のデスクに並ぶエナジードリンクの缶や風邪薬などは見逃せないサインだと考えており、自ら「疲れていない?」「休めてる?」と声をかけるようにしている。

「困ったら言ってね、と若手に言うのは簡単です。もちろん自らオープンにしてくれる人もいますし、そうしてもらうのがいちばんいい。でももしかしたら、『そんなこと言われても言えないよ』という環境を、こちらがつくってしまっているかもしれません」

それは「いじめがあったら相談して」などと子どもに伝えても、それだけでは問題が解決しないことと似ている。そう指摘しつつ、前川氏はさらに次のような例も挙げた。

「前述の電話応対や言葉遣いなど、一般企業では新人研修で教わるようなことも、学校では誰も教えてくれないことが多い。それなのに、先輩教員には『これぐらい常識でしょう』と言われてしまうことも。でもこれって、教えていないことなのに、それができないと子どもを叱るのと同じことだと思いませんか」

これらの類似性によって、若手教員の育成がうまくいかない学校が、いかに教育の場として致命的な問題を抱えているかに気づかされる。なぜなら若手教員の育成は、そこに必要なスキルも蓄積される知見も、子どもの教育と直結する取り組みだからだ。

「二段構えのハードル」のうち、授業に関する悩みは、教員である限りずっと続くものだろう。近年も時代の求めや学習指導要領の改訂などを受け、新たな授業を模索する動きが続いている。「本を読むことはもちろん、ほかの先生の授業を見たり公開授業に行ったり、授業については真摯に勉強を続けてほしい」と話す前川氏。だからこそ、悩まなくていいことに悩んでほしくないとも強調する。

「ブラック部活や働き方の問題を改善するには、制度の変更が必要です。現状の研修の改善など、初任者の悩みを軽減するための改革も不可欠でしょう。私たちミドル層の教員がなすべきことも多いと感じています」

「当たり前」をいつか変えるために、疑問を持ち続けて

約10年前、東京都庁で行われた教員採用の説明会には、1日で1000人以上の教員志望者が集まった。登壇を終えてロビーに出れば、若手教員の生の声を聞きたいと参加者が長蛇の列をつくった。あのときの活況ぶりが忘れられない、と前川氏は当時を振り返る。

採用に携わっていた頃の感謝状(左上)。当時の説明会には、500人規模の会場に入りきれないほど志望者が詰めかけた(右上)。前川氏は採用案内パンフレットにも登場(下段)
(写真提供:前川氏)
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