「ミスターJGB」が語る日本国債発行に潜む難所 過度な懸念は不要も唯一避けたい危機は何か

拡大
縮小
国内外の金利環境は大きく変わり、国内政治は相変わらず財政規律の弛緩が続く。国債発行の現場に死角はないのか(撮影・梅谷秀司)
2000年前後の国債市場の制度改革や東日本大震災の復興債発行などを手がけ、国債のエキスパートとして知られる齋藤通雄・財務省理財局長。国内外の金利情勢が大きく変化する中、昨年6月、東海財務局長から本省の局長へ呼び戻されるという異例の人事で注目を集めた。
足元の長期金利は再び、日本銀行が上限に設定する0.5%近傍に張り付くなど、日銀の政策修正を受けて上昇傾向にある。金利上昇や日銀の政策変更は年間200兆円を超える国債発行の現場にどのような影響を与えるのか。「ミスターJGB(日本国債)」との異名をとる齋藤氏に話を聞いた。

──日本の長期金利は上昇方向にあり、国の一般会計予算の利払い費では歳出増による予算圧迫要因となります。国債発行業務に対してはどんな影響を与えるのでしょうか。

われわれが行っている国債管理政策は、かなりの部分が「受け身」である点を理解してもらう必要がある。

そもそも国債をいくら発行する必要があるかということは、予算編成過程で決まってくるものだ。また発行金利についても、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)やそのときどきの金融政策、国内外の金融マーケットの状況から決まる市場実勢に即して決めている。

われわれは、それらを所与の前提としたうえで、必要な規模の国債発行を確実に実施し、さらにできるだけ低いコストでそれを行うことが求められている。

社債発行や住宅ローン変更のような融通性はない

──「受け身」というのは、わかりやすいキーワードです。

国債には1年までの短期債のほか、利付国債では2〜40年と償還年限の長短がある。超長期(20年債、30年債、40年債)は生命保険会社や年金基金、中期(2年債、5年債)は銀行などの預金取扱金融機関といったように、年限によって主たる投資家層は変わってくる。投資家の需要状況を勘案して、それぞれの年限ごとに需給を崩さないよう発行の配分を決めていくことがポイントとなる。

発行額が多いため、国債発行においては「金利が上がったから資金調達を一時的に見合わせよう」とか、「低金利だから長い年限を多くしよう」とかいったような企業の社債や個人の住宅ローンと同じ行動は取れない。発行計画に則って、年12回、毎月同じ金額を粛々と入札している。足元で金利が以前より動くようになったからといって、直ちに国債発行に影響が出ているわけではない。

──そうした中でも何らかの変化はありますか。

次ページ機関投資家が国内債券に資金を戻す動きも
関連記事
トピックボードAD
連載一覧
連載一覧はこちら
トレンドライブラリーAD
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT
有料法人プランのご案内