国債「60年償還ルール」見直しで防衛費捻出の悪手 自民党中枢部から噴出した政策議論の劣化ぶり
防衛費増額の財源確保をめぐり、自民党内で国債「60年償還ルール」の見直し議論が急速に高まっている。そもそも60年償還ルールとは何か。また、その見直しは何を意味するのか。
自民党内で国債の「60年償還ルール」見直しの議論が始まっている。
岸田文雄政権が決めた防衛費増額では、その財源として歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入、増税の4つの確保策が検討されている。積極財政派が多数集まる安倍派では、増税への反対意見が強いが、同派の幹部である萩生田光一政調会長、世耕弘成参議院幹事長らが中心となって浮上させたのが、国債60年償還ルールの見直しだ。
現在のところ、2027年度ベースで年1兆円強(防衛費増額の約4分の1)を増税で確保するというのが政府の計画だが、償還ルール見直しによって新たに防衛費財源を捻出できれば、増税幅は圧縮できる。安倍派を中心とした積極財政派の狙いはそこにある。
60年償還ルールとは何か
建設国債を財源とした公共事業の建築物は、耐用年数がおおむね60年であるため、その建築のための借金(国債)も60年で現金償還を完了させるのが望ましいのではないか――。そうした考え方から生まれたのが60年償還ルールだ。
具体的には、国債発行残高の1.6%(約60分の1)を毎年度の国債償還費として一般会計に計上する。実際には誤差が生じるものの、そうやって60年かけて元本を償還していく形を取る。
一般会計に計上された国債償還費は、特別会計(国債整理基金特別会計)へ繰り入れられ、全体の償還の一部に毎年充当されている。しかし、国債償還費だけでは償還費全体を賄うには遠く及ばない。2022年度当初予算ベースで見ると、国債償還費は15.6兆円だが、借換債発行は149兆円にも上っている。つまり、現金償還(国債償還費)の10倍弱については、新たな借金(借換債)で政府はロールオーバーしている。
ただ、これまでのところ、借換債発行は大きな混乱もなく行われている。であれば、60年償還ルールは止めてしまって、借換債発行で全部対応すればいいという考え方も成り立つ。世界を見渡しても日本のような元本償還ルールを定める国は多くなく、利払い費だけを国家予算に計上する国が多い(日本の場合は、利払い費+国債償還費=国債費として計上)。
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