全国初の「不登校特例校」夜間学校がなぜ香川県の三豊市高瀬中に誕生したのか 「首長はどうかハンコを」教員が懇願する背景は

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その後も悶々とした日々を送るが、ついに2017年の4月、城之内氏が40歳の年に中国地方で初となる「岡山自主夜間中学校」を立ち上げた。翌年には一般社団法人「岡山に夜間中学校をつくる会」の理事長に就任。通常学級の教員を続けながら、夜間中学の設立に奔走した。

「夜間中学開設の試みを始めた頃、懇意にしていた先生に、『城之内、お前は校長や教頭の道を諦めるのか』と言われショックを受けたこともありました。周りの先生方が『巻き込まれたくない』と思っているのも承知していました。しかし、私は校長になるために教員になったのではありません。先生としての責任を放棄したくない一心で、相談相手もいない中でこの取り組みを始めました。しかし、最初に設立した岡山自主夜間中学校には、半年以上誰も来なかったんです」

そんな時、この取り組みを聞きつけた香川県三豊市長の山下昭史氏が城之内氏に接触を図った。そして自治体間の人事交流制度で城之内氏を三豊市に招聘し、三豊市総合政策アドバイザーに任命したのだ。

行政が夜間中学拡充に消極的な衝撃の理由

そもそも、夜間中学は、義務教育を修了していない高齢者や外国人労働者の学び場というイメージがある。現在はどのような状況なのか。夜間中学はかつて各地で、戦後の混乱期に貧困や労働で通学できなかった若者を受け入れてきた。しかし、1960年代からの高度経済成長とともにその数は激減。当時の行政管理庁は、「昼間の学校に通う生徒が少なくなる」という理由で夜間中学を潰すことも検討していたという。

この流れが変わったのは、実は最近で2016年のこと。「教育機会確保法(※)」が成立し、義務教育の段階で普通教育に相当する教育の機会を確保することが定められた。これにより、従来は夜間学級の扱いだった夜間中学が、単独校として設置できるようになった。19年には埼玉県川口市、千葉県松戸市で22年ぶりに夜間中学が設置され、これを皮切りに、茨城、高知、徳島、北海道、香川、福岡などが続き、現在、夜間中学は全国で40校に上る。しかし、多くの自治体が夜間中学の設立に熱心かというと、「必ずしもそうではない」と、城之内氏は語る。
※義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律

「理由の1つは財政的な問題です。政令指定都市ならまだしも、人口が少ない都市は予算を確保しづらいのが現状。しかも、教育機会確保法には罰則規定や財政支援については明記がなく、いわゆる理念法であったことも確かです。とはいえ、設立が不可能というわけではありません。結局は首長の決断次第であり、これがもう1つの理由でもあります。今、多くの教育委員会や市議長、区議長は、『夜間中学の設立には、まずニーズ調査が必要』と答えるでしょう。しかし20年の国勢調査によれば、小学校を出ていない人は約9万人、中学校を卒業していない人は約80万人います。彼らに教育の機会を提供するには、確実に夜間中学が必要です。夜間中学は本来あってはならない学校ですが、同時になくてはならない学校でもあるのです」

夜間中学は「人間の尊厳」を取り戻す場所

三豊市立高瀬中学校には2022年10月、県内の中学3年の不登校生1人が入学した。この生徒は、入学のために家族全員で香川県に引っ越してきた。

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