Wi-Fiが飛ぶ森で授業、長野県の小さな公立小に「教育移住者」が増える理由 小規模特認校・伊那西小、学校林をフル活用

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「例えば理科の授業では、毎年3〜4年生が林間の中でチョウの観察を行うなど、動物や昆虫を観察するほか、実際に物を燃やしてみるなどの実験も林間で行っています」

教科学習まで森で行えるのは、落ち着いて学べる「森の教室」が整備されている点も大きい。これは学校林から伐採した木材を使用した屋根付きの屋外学習施設で、農林業や木工事業を展開する地元企業の職人が中心となり、保護者や児童も仕上げを手伝って2020年度に完成した。

チョウの観察ができるバタフライガーデン(左)、理科の実験(右)、森の教室(左下)、森のステージ(右下)

「それ以前もPTAと地域の皆さんが協力して作ってくださった森の教室がありましたが、1学級の児童が全員座れる机といすを備え、より授業で使いやすい形に作っていただいたのです。森の教室のそばには『森のステージ』もあり、ここでは音楽の授業で歌を歌ったり、国語の教科書にある『くじらぐも』を本物の雲を見ながら読んでみたりといった授業も行っています」

さらに森での学びを支えているのが、ICTの活用だ。なんと森の教室にもプロジェクターが設置されている。

森の教室での授業

「本校はGIGAスクール構想以前から1人1台端末を整備していたこともあって活用が進んでいます。今年9月には林間でもWi-Fiを使えるようにしたことで、林間で見つけたものを撮った写真を共有するほか、わからないことを放置せずにその場で検索できるようにもなりました」

豊かな自然環境にひかれ「教育移住」してくる家庭も増加

森は学校単位での学びにも生かされている。現在、全校生徒58人の伊那西小は、1学年1クラスで10人前後と少人数だ。

「クラス内の多様性があまりないので、林間のマラソンコースを整備する際などは、1〜6年生の縦割り班で活動します。県の林業センターの専門家の指導の下、自分たちで計画を立て、作業を行い、振り返りもしており、異年齢という多様性の中で意見を聞き合う学びを大切にしています」

異なる学齢の子どもが一緒に学び合い、活動する場でもある森。そこでの学びは、教員や保護者にとってもさまざまな気づきがあると有賀氏は話す。

「マラソンコースの整備では、『この根っこは切ったほうがいい』という意見が出てきます。その際、児童から『切っていいの?』と疑問の声が上がりましたが、専門家の方がこうおっしゃったんです。『ここは原生林とは違う生活の森。邪魔だと思えば切っていいし、残したければそのままでもいい。その代わり、草木も日光を求めて伸びてくる。お互いに大切なものをどう守るか、森と君たちとの戦いでもあるんだよ』と。この言葉には私もハッとしました」

朝のマラソンコース(左上)は、年に3回全校活動として児童たちが縦割り班で整備(右上、左下、右下)

日常的に森で過ごし、じっくり関わるからこそ得られる深い学び。そんな伊那西小の教育環境にひかれて入学・転学する児童も増加している。

「本校では児童数が減少していたのですが、小規模特認校となり、通学区域以外の市内在住児童も入学・転学ができるようになりました。学校見学は、北は北海道から南は沖縄県まで日本全国から参加いただいており、今年の前半だけで29件。林間での授業をオンラインでつないだ市主催の見学会は37件の視聴がありました。説明を聞いて『自分もここで学びたかった』とおっしゃる保護者も多いです」

「森」「田舎暮らし」「総合的な学習の時間」などのキーワードで探して伊那西小に興味を持つ保護者が多く、実際に教育移住者は増加。小規模特認校となった2018年以降、児童数がV字回復している。通学区域は農業振興地域ということもあり、賃貸物件や新築できる土地が少なく、市外から教育移住してきた児童は、市内の別の地域に住み、伊那西小に通うケースが多いという。

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