米IT系トップに超エリート続々輩出のインド、拡大する学歴社会の「影」とは 小学校入学時点で「輪切り」にされる子どもたち

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「私が研究している土地では学区制がなく、親が家庭の経済状況に見合った学校を選んで子どもを通わせる形になっています。もちろん公立校もありますが、教育の質は学費の金額に応じたものになっており、優れた教育を受けさせようと思えば、学費の高い私立校に入れることが必要になります。家庭の経済力によって、子どもたちは初等教育の入り口で『輪切り』にされているのです。入り口が違えば出口も当然違ってくる。世界的にも有名なIIT(インド工科大学)などのトップ校に進むには予備校通いも必要になり、貧しい家庭の子どもはなかなか手が届かない状況です」

公立校や学費の安い私立校は、現地の言葉で授業を行う「ヒンディー・ミディアム」の学校だ。対して余裕のある家庭の子どもは、英語を教授語(教育言語)とする「イングリッシュ・ミディアム校」に入学することができる。経済力による分断はそのまま英語力の差となり、後の高等教育に至るまで続く。

経済状況によって学校を選ぶことが、集団の同質性を高める

佐々木氏はさらにこう説明する。

「格差是正のため、貧困層のための優先枠が設けられているイングリッシュ・ミディアム校もあります。裕福な家庭の子どもが英語を生活言語として育つ一方で、私の主な調査対象である貧困層の若者は、その多くがヒンドゥー語の世界に生きています。運よく優先枠に入れても、突然英語を求められるという環境についていけず、結局ドロップアウトしてしまうケースも多いと聞きます」

公立校の質の悪さは、インドの教育政策でもつねに問題とされているという。公立以上に悪質な無認可の学校が摘発される事件も珍しくはない。同国にも日本の学習指導要領のような決まり事はあるものの、現場レベルではなかなか徹底されていないのが実態だ。さらに、そうした公立校の改善すべき点を、子どもの親が正しく指摘できないという問題もある。

「2000年前後ごろまでは、いかに義務教育を広く行き渡らせるかということがインドの課題でした。それはかなり達成されてきましたが、親世代には教育を受けていない層もいます。そのため、自分の子どもの教育環境をどうすればいいのか、不満があってもどう変えるべきなのかがわからないのです」

また、佐々木氏は「経済状況によって分断されているインドの学校は、同質性が非常に高い」と続ける。

「同じ街に住んでいても、違う学校に通い違う言葉を話していれば、異なる階層の子どもと触れ合うことはありません。私のフィールドワークを裕福な家庭の大学生に手伝ってもらったことがあったのですが、その学生は『今日、生まれて初めてスラムの人と会話しました。新鮮でした』と言って驚いていましたよ」

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