勉強嫌いな子どもにも「学ぶ面白さ」がわかる「ゲームを通した学び」の可能性 学習ゲームの限界超えるGBLは実現できるか
学んでいることに気づいていない学びこそが最高の学び
tanQのカードゲームの特徴は、「プレーヤー同士がバトルを繰り広げながら、モンスターを手に入れる」といった、子どもたちが熱中している人気ゲームの要素がふんだんに盛り込まれていることだ。
例えば、同社のヒット商品である「アトムモンスターズ」は、さまざまな遊び方があるがその中の1つ「神経衰弱ルール」では、トランプの神経衰弱の要領でキャラクターの描かれた原子のカードを組み合わせて分子の合成に成功すると、“分子のモンスター”が描かれた分子カードを“召還”してゲットできるというものだ。水素カード2枚と酸素カード1枚を組み合わせて「水」の合成に成功した場合の得点は18点になるというように、分子ごとの1モル当たりの質量が点数となっており、分子量が大きい分子(つまり合成の難度が高い分子)の合成に成功するほど高得点をゲットできる。

原子や分子は中学理科で学習する分野だが、子どもたちは前提知識がなくても、カードを組み合わせてモンスターを召還するゲームを楽しむうちに、自然と元素記号や化学式に詳しくなる。また原子カードと分子カードには、例えば窒素のカードであれば「火薬の原料でもあり筋肉の材料。大気の78%を占める。窒素だけだと窒息してしまうのでこう呼ばれた」といったような一口メモが書かれており、それぞれの原子や分子の特徴についての知識も、自然と身に付いていくような工夫がなされている。
「世界は原子と化合物でできていることに気がついた子どもたちは、世界が化合物というモンスターで成り立っているように見えてきます。例えば家族で旅行した温泉で成分表を目にしたときに、『この硫黄泉というモンスターは、どんな元素でできているんだろう?』ということが気になって仕方なくなる。そして本人は化合物の勉強をしている意識はなく、ただ好奇心からモンスターの正体を突き止めようとします。私たちは、本人が学んでいるとすら気づいていない学びこそが、最高の学びの体験であると考えています」
ゲームでキャラクターに愛着を抱かせ、マンガへと連動する
ただし森本氏は「アトムモンスターズ」について、「面白さという点では、まだポケモンカードを上回ることはできていない」と考えている。そこで2022年11月末に発売予定の「カンジモンスターズ」では、新たな挑戦に取り組もうとしている。
「カンジモンスターズ」は、漢字の部位が書かれたマナカードを組み合わせて1つの漢字を作ることに成功すると、モンスターカードが手に入り、その漢字に宿る“技(呪能)”を“発動”させることで、相手が持っている山札を減らし、ダメージを与えていくというゲームだ。相手の山札がゼロになったら、こちらの勝利となる。

モンスターが繰り出せる技は、その漢字の成り立ちと大きく関係している。例えば「言」という漢字は、本来は「入れ墨を入れるための針」を意味する「辛」という漢字と、「神への祝詞を入れる箱」を意味する「口」という漢字が上下に組み合わさって成立した漢字であり、「言」自体はもともとは「神に誓う言葉」を意味していた。「言=神への誓い」を破ることは、入れ墨を入れられる罰を受けるほど重い行為だったという学説がある。