「台湾有事」は本当にあるのか、講演会に参加した「日本の高校生」が得た視点とは? 台湾人研究者に聞く「情報リテラシーの重要性」

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前出の鶴山校長は「新型コロナウイルス感染症の拡大やウクライナ侵攻、円安の進行など、生徒たちが将来海外で学ぶことを躊躇する雰囲気が出ている」と指摘、とくに台湾有事といったネガティブな事情については、問題の本質を知ることで生徒たちが自分の将来を決める有意義な一助になると考えたと付け加えた。

「台湾有事はない」との指摘に驚く高校生

では、台湾人研究者は台湾有事をどう見ているのか。

劉氏は参加した生徒たちに向けて、「個人的には、台湾有事はないと考える」と述べた。生徒たちはこの言葉に驚いたようだが、劉氏が中国や米国の戦略など最近の動きを紹介し、それについて台湾がどう見ているかを説明した後、「台湾有事がない」と考える理由を次のように述べた。

銘伝大学 国際教育交流所長
劉廣華 准教授
(写真:安蒜氏提供)

まず、中国にとって台湾の問題は第1に優先すべきことではなく、その前に米国との貿易対立といった米国と直接関わる問題を解決すべきだと考えていること。次に、有事が起きればまだまだ成長すべき中国経済に多大な悪影響を及ぼすこと。それは、戦闘になるとその暴挙に世界が中国への経済制裁を実施するはずで、世界の工場といった役割を果たしている中国にとっていわば「カネがなくなってしまう」(劉氏)事態を招いてしまうためと説明する。

また、「産業のコメ」である半導体について、台湾が世界の3分の2を製造しているという事実を指摘した。もし中国が台湾を攻撃すれば、半導体の生産が減速、もしくはストップする事態を招きかねない。となると、世界はもちろん中国にとっても半導体不足が生じ、これも経済に悪影響を与えてしまう。

さらに劉氏は、台湾の人らしい見方を披瀝する。「仮に中国が台湾を占領すれば、台湾の人の対中意識、とくに悪意が生じ、中国は台湾をうまく統治できない」。また、台湾の地理的な位置も中国人民解放軍にとっては攻めにくい地形であることも紹介した。

これは、もともと多くの台湾の人が「自らは中国ではない」と考えながらも「現状維持が好ましい」と考えていること。そのため、仮に中国が台湾を支配するようになっても、中国への敵意を増大させる台湾の人を中国がうまく統制できるかは大いに疑問だということである、と劉氏は述べた。

さらに台湾海峡の水深は浅く、沿岸の防衛も台湾の軍隊がしっかりと守っているため、上陸作戦を中国人民解放軍が成功させる可能性は低い。となると、中国大陸からミサイルを発射する攻撃しかないが、それは必ずしも有効ではない。ミサイルで台湾側の資産や人命に損害を与えても、それで台湾を得ることにはならないためだ。

(写真:安蒜氏提供)

劉氏からの説明を受けて、高校生たちも活発に質問を繰り返した。山形南高校の生徒の一人が、こう質問した。

「1996年に一度、台湾海峡が緊張し、米国軍空母まで出動したことがあると劉先生は紹介しましたが、今回は当時とどのような点が違うのでしょうか?」

避けるべき、偶発的な衝突

劉氏は、「30年前と状況が違うのは、中国の国力、軍事力が上がっていること。米国軍は戦争の抑止力にはなるが、中国の軍事力も航空面などで向上している。そのため、米国軍も中国人民解放軍も、30年前のときよりも双方がより距離を保って威嚇・圧迫している」と答えた。

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