「子どもたちのために」が主体性を伸ばす機会を奪う、親切すぎる教師の罪 「不親切教師」が子どもを伸ばし残業も減らす訳

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これだけではない。どうしても縄跳びができなかった子が、友達の力を借りてできるようになったこともあったという。

「スクール型」の配置は、教員が黒板を使って一律に教える授業に適しているが、写真のような「アイランド型」は、生徒同士が顔を合わせ、話し合う学びに適している。コロナ禍で影響も受けているというが、松尾氏は「アイランド型」を積極的に採用しているという
(写真:松尾氏提供)

「教員の力ではできないことも、子ども集団の力を借りるとグッと力が上がるんです。得意なこと、苦手なことは人それぞれ。子どもたちには、『助けて力』が大事だよと言っています。教員である私も含めて誰かが『助けて』と言うと、『やるよ』と言う子が出てきます。自分の得意なことを発揮するには、それが苦手な人がいないといけない。得意・不得意はあっていいし、それが社会の構造だよ、と子どもに伝えています」

これまでの教育ではいろいろな学力やスキルを満遍なく平均的に身に付けるような指導が行われていた。その背景にあったのは、「言われたことを言われたようにミスなくできる人材」が必要とされた、高度経済成長期の社会のあり方だという。

「当時はそれが最適解だったのでしょう。しかし、今はそれぞれが得意なことに特化し、力を発揮することが求められています。制度を今すぐ変えるのは難しいですが、私は子どもや子ども集団の力を引き出すほうに注力したいと考えています。粘土で象を作るとき、鼻の形の粘土をくっつけるとすぐに取れてしまいますが、粘土を引っ張って伸ばせば取れませんよね。それと同じで、教員が親切に先回りしていろいろやってあげたり安易に正解を教えたりするのではなく、一歩引いて見守り、子どもの力を引き出す。それが私の考える『不親切教師』です。子どもの力を引き出せば教員の労力も減り、何もしなくても学級が回っていくのです」

子どもの力を引き出すと教員の残業が減る

子どもの力を引き出す不親切指導を実践する「不親切教師」。そんな松尾氏は、担任としてはかなり残業時間が少ないほうだという。

「まず、ドリルの丸つけはいっさいしません。ドリルの丸つけは、授業中に子どもが自分でチェックしています。授業中の漢字テストも、子ども同士で丸つけをします。すると、いい加減な字を書けばバツになりますから、お互いに『雑な字を書かないほうがいい』とわかるようになるのです。漢字テストの結果は私もチェックしますが、子ども同士で丸つけをすることでいろいろなことに気づくのです。計算ドリルも同様です。1年生でも子ども同士で丸つけをします。『1年生にはまだできない』と考えるのは子どもの力をなめています。『できる?』と聞くと、子どもは『できる!』と言いますし、実際にできますから。子どもには『どうしてもできない子は持っておいで』とは言いますが、ほとんどいないですね」

また、松尾氏は一律の宿題も出さないという。

「授業中に指導しているので、一律の宿題は出しません。授業内で終わらせるべき内容をやり残し、宿題にするのは残業命令のようなもの。習い事をたくさんしている子、親御さんが宿題を見てあげられない家など、子どもやご家庭によって事情は異なります。一律で宿題を出せば子どもを勉強嫌いにさせてしまいます。それでは本質からずれてしまいますよね。漢字テストで100点を取りたい子は宿題を出さなくても勉強してきますし、夏休みの自由研究をなくした時も、好きでやりたい子は自分から作ったものを持ってきました。そういうものは教室に展示します」

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