熊本県立高森高校「公立初・マンガ学科」新設に注目集まる、その舞台裏とは? 官民連携、地域が一体となった学校づくりとは?

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地元高森町からも、高齢社会に対応した福祉に関する学科をつくったらどうか、あるいは、16年の熊本地震を受け、防災に関する学科をつくるのはどうかといった意見が出た。こちらも検討されたものの、最終的には高森高校だけではどうすることもできない日々が続いた。

しかし、そこに一大転機が訪れる。山中校長が言う。

「地元高森町の草村大成(くさむら・だいせい)町長から『南阿蘇にある唯一の県立高校がなくなったら絶対に困る。町が精いっぱいバックアップするから』と言われました。数年前から支援金として入学金や教科書代を負担してくれていたのですが、さらに町が応援体制を敷いてくれ、生徒数の確保に向けて新たに動き出すことになったのです」

シリコンバレーのような、漫画家が集う町に

高森町は熊本県の最東端部に位置し、人口は約6000人。南阿蘇の豊かな山野に囲まれ、農業と観光が盛んで、ペンションやキャンプ場が点在する。いくつかの工場もあるが、近年はほかの地域と同様、人口減少に直面していた。

そこで町長は、選挙マニフェストにマンガを基軸にした町の活性化を掲げ、熊本県出身で幼少期を高森町で過ごしたことのある元『週刊少年ジャンプ』編集長の堀江信彦氏が率いる出版社コアミックスに協力を打診。町有の遊休施設をコアミックスが購入し、第二本社を20年に設立、アーティスト育成施設「アーティストビレッジ阿蘇096区」を開設した。

(右上)コアミックス代表取締役社長・堀江信彦氏(右下)(左)コアミックスの第二本社「アーティストビレッジ阿蘇096区」

それに伴い、コアミックスと高森町が協力して、国際的な漫画キャンプを開催し、海外から漫画の愛好家たちを集め、日本の漫画文化を伝えると同時に、本格的な漫画家志望者にはコアミックス第二本社で編集者が指導するという取り組みも行われた。高森町とコアミックスが共同で、高森町を米シリコンバレーを手本とした、漫画を中心としたエンターテインメントの一大産業地域、「マンガシリコンバレー」にしたいという構想を推し進めていたのだ。

2018年より、日本国外での漫画の発展を目的に行われている「くまもと国際マンガCAMP」

そうした中、プロの漫画家や編集者らが高森町に来て、海外の人たちに漫画を教えているのだから、高森高校でも漫画家志望の生徒に何か教えられるのではないか、そんな意見が出てきた。ならば、いっそ町と高校が一体となり、「マンガ学科」をつくってみてはどうだろうーー。それが、町長から高森高校へのオファーにつながったのだ。

「実際にオファーを受けたのは、前任の校長が退職する直前の20年3月ごろでした。私は前任の校長から話を引き継ぐ形となり、アイデアとしてはすばらしいものの、実現するには何から手をつけていいかわからない、大きな課題を抱えることになったのです。ただ、その時点で全国から生徒を呼び込むにはマンガ学科をつくったほうがいいという考えはありました」

そう語る山中校長は今年で校長就任3年目。熊本県内の複数の高校や教育委員会事務局などの要職を務めたベテランで、20年4月に高森高校に校長として赴任した。

実はちょうどその頃、県教育委員会では組織改革が行われている。そこでは高校魅力化プロジェクトを本格化するため、その政策を強化する布陣が敷かれ、全県立高校の魅力化を図る取り組みが加速されようとしていた。山中校長は教頭と共に、県教育委員会の高校魅力化推進室に足しげく通い、マンガ学科新設への思いや支援を呼びかけ続けた。しかし、結果として、思うような成果は得られなかった。山中校長らは諦めることなく、水面下で県外のユニークな学科を持つ学校のカリキュラムなどさまざまな情報収集に1年近くを費やすことになった。

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