三田国際「プロティアン・キャリア教育」で自律的にキャリア築く力が育つ理由 内田雅和教頭「社会の変化に対応していくには」
プロティアン・キャリアでは、個人が自律的キャリアを形成するうえで、「アイデンティティー」と「アダプタビリティー」の2つのコンピテンシーが軸になると考える。このうちアイデンティティーは、自分の価値観や興味関心、資質を適切に把握していることをいう。一方、アダプタビリティーは社会環境の変化に自己を柔軟に対応させていけることをいう。
この2つのコンピテンシーが兼ね備わることで、「自己のアイデンティティーを保ちながら、社会の変化に対応し、自分らしいキャリアを築き上げていく」ことが可能になるわけだ。
生徒同士がコーチングをし合いながら、自己理解を深めていく
では三田国際では、プロティアン・キャリアを築き上げていくための教育をどう実践しているのだろうか。
同校のキャリア教育は、中学1年生の「自己理解」、2年生の「職業研究」、3年生の「学問研究」の3つのステップで行われている。
まず1年生の「自己理解」は、入学直後に実施するオリエンテーション合宿からスタートする。この宿泊行事では、教師と生徒は対等であり、また生徒同士も対等であるという意識づけをしたうえで、3人1組ないしは4人1組に分かれて、生徒同士によるグループコーチングが行われる。「これまでの自分の人生や、これから自分はどうありたいか」について、互いにコーチングをし合いながら引き出していくのだ。
「コーチ役の生徒には、単に相手の話を傾聴するだけではなく、気づいたことをアドバイスシートに書き込むように求めています。生徒は自分のことについて書かれたアドバイスを読みながら、自己理解を深めるためには、自分一人で考えるのではなく、他者の言葉に耳を傾けることも大切であることに気づかされます」
生徒はコーチング後に、「自分はどんな人間になりたいのか、どんな人生を歩みたいのか」について目標設定シートを作成する。このように、ある一つの活動をした後には必ずリフレクション(内省)の機会を設けていることも、同校のキャリア教育の特徴だ。

また夏休みに生徒たちに課しているのは、小学校時代にお世話になった学校や塾の先生にアポイントを取り、「自分はどんな子どもだったか」についてインタビューをすること。そして2学期に実施する学園祭では、「自己理解」をテーマに、生徒一人ひとりが10分間のプレゼンテーションに取り組む。プレゼンテーションは、みんなの前で、自分の考えを自らの言葉で表現していく力を磨く貴重な機会となる。
働くことの意味や価値を考えさせる
こうして1年生のときに「自己理解」の活動を通じて、自己のアイデンティティーと向き合う経験を積ませたうえで、2年生では広く社会に目を向けさせるために、「職業研究」に取り組んでいく。
具体的には、まず学校が用意した企業に、グループ単位で訪問を行う。そのうえで生徒には、「もしほかにも気になる企業があるのなら、自分でアポイントを取って企業訪問をしてごらん」と呼びかける。すると約8割の生徒が実行に移すという。中には先方から断られてもすぐには諦めず、「なぜ御社に興味があるのか」を粘り強く説明し、訪問を実現するという生徒もいるそうだ。
内田氏が職業研究の際に生徒たちに伝えているのは、「この活動は、将来なりたい職業を決めることが目的ではないからね」ということだ。自己のあり方・生き方をつねに模索し続け、また自己を取り巻く社会環境も刻々と変化している中では、なりたい職業も往々にして変化していくのは当然のことだからだ。