中高生が自力で200万円以上の資金調達まで行う国際ロボコン「FRC」の凄み 参加過程のすべてが「STEAM教育プログラム」
「かつては受動的にテスト対策のためだけに勉強していた私にとって、ボランティア活動と聞いても、自分では大したことができないと思っていたし、興味もほとんどありませんでした。しかし、アウトリーチ活動を通して、私でも何かしら役立つ、社会的インパクトを与えることができることに気づくことができました」(中嶋さん)
中嶋さんは、このほかFRCで新人賞3つ、「FIRST Dean’s List Finalist」にも選出された。そして、FIRSTでの活動が評価対象となる「FIRSTスカラシップ」を利用して現在の大学を受け、合格を勝ち取った。現在はミネソタ大学医学部での研究活動や、公共機関での医療系ボランティアなど、学外の活動にも励んでいる。
「教育、公平性、医療にずっと興味を持ち続けて活動をしてきているので、将来は誰もが自分が本当に興味あるものを見つけ、そこに突き進むことができるような世の中をつくることに貢献したいと思っています」と語る中嶋さん。日本でのSTEAM教育の普及に当たっては、格差が課題だと指摘する。日本では最近、子どもを対象としたプログラミングやロボットスクールなどの習い事が人気だが、経済的な要因や地理的格差によってそうした教育機会を享受できない児童生徒もいるからだ。
「こうした格差を公平かつ迅速に解消するには、公教育の一部にFRCのような『実社会のテクノロジーに触れるプログラム』を入れることが必要だと思います。それが無理でも、全国の科学館やコミュニティーセンターなどの公的施設で部活動のようなものの一環として学校単位、または地域単位で行うことも可能ではないでしょうか。米国では地元企業や商工会議所がメンターを提供するなどFRCの活動をサポートしてくれています。定年退職をされたシルバー人材の方々がメンターとして若い中高生をサポートしていくなどのモデルは、日本でもピッタリなのではないかなと思っています」(中嶋さん)
「世界はロボットをホビーではなく科学技術と捉えている」
今、日本では理系人材の不足が企業課題となっており、将来の人材を確保するためにFRCの場で自社をアピールすることは企業にとってもメリットは大きいだろう。そう考える企業の1つが、テクノロジーを活用したシステム開発やデジタルコンテンツの制作などを手がけるチームラボだ。
同社は、10年ほど前から国内のロボコン参加者コミュニティーの支援を複数行ってきたが、2019年にはFIRST Japanとパートナーシップ契約を締結し、国内FRC支援の第1号企業となった。同社マネージメントチーム・リクルーターである山田剛史氏は、その支援内容について次のように語る。

(撮影:梅谷秀司)
「FIRST Japanへの資金提供のほか、技術面でのサポートと活動場所の提供をしています。具体的には当社のハードウェア開発を担当しているロボットエンジニアチームとFRCメンバーの生徒・学生たちが、チャットを使って技術的な質問への応答や意見交換を行っています。また、活動場所がないという要望が多く、オフィスの一部を提供しており、メンバーは日常的に部室のように使っていますね」
技術面、コミュニケーション能力ともに優れた生徒・学生が多く、「正直、ほかの企業さんに彼らの存在を知られたくないほどです」と、山田氏は言う。しかし、支援の目的は将来の人材確保だけではない。山田氏は、支援を通じて日本チームの活動環境の劣勢を挽回したいと考えている。