「広島県の公教育」が大変貌、教育長・平川理恵「もっと教委は現場に行け」の真意 国際バカロレア、イエナプラン、不登校支援ほか

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例えば、GIGAスクールで1人1台端末はそろったがプロジェクターがなくて困っていると聞いて、3年で整備する計画を立てた。不要なものがそのままになっている学校に出向いた際には、実はゴミを捨てるお金がないということがわかり、費用を申請できるように対応したという。就任して4年が経った今も平川氏は学校訪問を続けている。

「私の仕事は変革のスイッチを押すこと。それは現場を見ないとわかりません。探し当てたらスイッチを踏みまくって、再びその現場に行って変革がうまくいっているか確認し、政策を回していくのです」

平川氏が変革のスイッチを探して押す場所は、学校だけではない。教育委員会の事務局でも毎日フロアを回って職員と話し、時には「残業パトロール」と称して帰宅を促す。若手の指導主事が意見を言い合う場を設け、教員と教育委員会が話し合う場も設けてきた。

「教育委員会も、職員室も、若い人からベテランまで、みんなが意見を言える場にしなければ。教員自身、指導主事自身が『何でも話せる場』をつくるファシリテーターになってほしいのです。大人ができないことを子どもにやれと言うことはできませんから」

仕事のための仕事より「子どものため」の仕事を

平川氏が見つめているのは、「その政策や、教職員の仕事の1つひとつの本質はどこにあるのか」だ。その向かう先は、すべて1つのゴールに集約される。それは「子どものためになっているかどうか」だ。

「教育と医療は、経済合理性や効率性、コストパフォーマンスという概念に偏ってはいけないと思うのです。子どもは時間をかければかけるほどよくなります。だからこそ、経済効率性を問える部分は圧縮し、必要ないことをやめるスクラップ&ビルドは必要です」

就任時、指導主事は文書作成に追われていたという。「仕事のための仕事」を減らす必要性を訴えてきた結果、公文書の原案を作成する「起案」が1割減った。

「指導主事には『必要のない事務はやらないように』と言っています。事務仕事が苦手なら事務職の人に任せてもいいし、提出する資料も完璧でなくてもいい。それよりもっと学校に行って、子どもに関わってほしいと伝えています」

さまざまな改革を具現化してきた平川氏は「お金をかけなくてもできることはある」と指摘する。「SCHOOL“S”」を立ち上げる際も、県教育委員会の職員と一緒に、教育長自ら高圧洗浄機を手に、建物の清掃や家具の設置を行った。ここにも平川氏の現場主義が貫かれている。

「SCHOOL“S”」を立ち上げる際、県教育委員会の職員と一緒に、教育長自ら建物の清掃や家具の設置を行った。上段がリフォーム前、下段がリフォーム後の「SCHOOL“S”」
(写真:広島県教育委員会提供)

教員の心に火をつけ、伴走して教育を変える

就任5年目となる今年4月、平川氏は「令和4年度 広島県教育委員会八策」を発表した。これは県教育委員会職員をはじめ、県内の教職員に対し、県教育委員会が何を目指しているか、そのビジョンを示したものだ。

「令和4年度 広島県教育委員会八策」
1.  広島県 教育に関する大綱「一人一人が生涯にわたって主体的に学び続け、多様な人々と協働して、新たな価値を創造する人づくり」を実現する。
2.  教育の根源は、生涯にわたって学び続けるということである。幼児児童生徒も大人も、学びの習慣を身につけ、学び上手になれるよう「学びの変革」を推し進めていく。
3.  学校や教育委員会は、「我が子・我がことであれば」を旨に、「子ども基点」を貫く。
4.  根源的な問い「生きるって何?」を主軸とした探究学習を、すべての学校に汎用させ、キャリア教育と結びつけて実践していく。
5.  現場は「教室」である。教室に行って教員とともに子どもの様子を観ながらカリキュラムを創る。指導主事は、教職員の心に火をつけ、伴走し、はしごを絶対に外さない。
6.  子どもを含め年齢や職を問わず誰もが「新しいアイデア」や「率直な意見」をなんでも言い合える「組織風土」づくりを心掛け、多様な意見からより良い判断を行う。
7.  幼児児童生徒一人ひとりの自己肯定感を大切にするため、個別最適な学びや本物の体験を重要視し、不登校対策・セーフティネットを確保する。また幼児児童生徒の人権と主体性を尊重し、教師が一方的に設定している生徒指導規定等の見直しを図る。
8.  教育公務員として、高い倫理観を持つ。とりわけ、幼児児童生徒に対する猥褻セクハラは絶対に許さず、厳しく処する。
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