こども家庭庁発足へ、子どもを守る「こども基本法」がない日本の大問題 末冨芳「子ども政策に横串刺す法律が必要」な訳
「何の法的根拠もなく公園の遊具が使用禁止になり、公園で子どもが遊んでいると大人に怒鳴られたり、ひどい場合は警察に通報されたりしました。新型コロナの感染拡大で行動を強く制限されたのは子どもたちだったのに、子どもを守る法律がないことを多くの関係者が目の当たりにしました。それに対する悲嘆や怒りから、私を含む子ども若者支援の専門家・関係団体は子どもを守る法律の制定と、子どもを守る行政組織の必要性を強く認識し、行動するようになったのです。そうした関係者の中には与党の政治家も少なからずいました」
こども庁か、こども家庭庁かの議論
当初、新設される組織は「こども庁」とされていたが、なぜ名称が変更になったのか。
自民党内の保守派などから、子どもは家庭を基盤に成長するため「こども家庭庁」にすべきという意見が強く出たからだが、伝統的な家族観を重視する保守派内には「こども庁」では子どもが権利ばかり主張するようになるという危惧もあったようだ。
これに対して、こども庁の創設を目指してきた民間団体などからは「虐待で家庭が地獄という子どももいる」「子どもに関することは結局、家庭(保護者)の責任にされる」などの反発が起きた。この論争に対して末冨氏は「名称をめぐって対話を拒否するようなことはすべきではない」とクギを刺したうえでこう語る。
「子どもをど真ん中に置き、子どもの権利と尊厳を大事にするためには、家庭も大事な養育環境というのなら納得できます。しかし、家庭のない子どもや里親にすら虐待されている子どももいる。同性婚など多様な家族の概念や子どもの人権が広く認められているとは言いがたい日本の社会で、こども家庭庁という名前になったら、親に責任を押し付けるようなことになりかねないと危惧することも理解できます。そうしたさまざまな疑問や思いに対して、野田聖子少子化担当相や岸田文雄総理がどんなメッセージを発信するのかも含めて、今後の議論を注視していく必要があります」
実際、こども家庭庁はどのような機能を果たしていくのか。虐待防止や子どもの貧困対策、児童手当や認定こども園などの行政業務に加え、子どもに関わる仕事に就く人に性犯罪歴がないかを確認する「日本版DBS制度」の検討なども行うようだ。
これらをしっかりと機能させるには、「財源と子ども政策に関わる人員を増やすこと、そして子どもの尊厳や権利を大事にしていくための『こども基本法』の3点セットが必要です」と末冨氏は強調する。
「子どもの権利条約」批准から28年を経て「こども基本法」の成立へ
基本法とは、国の制度や政策などの基本方針が明示されたものをいう。例えば、女性の権利には「男女共同参画社会基本法」、障害者の権利には「障害者基本法」があるが、子どもには子どもの包括的な権利や国の基本方針を定めた基本法がない。
だが、そのこども基本法が、「子どもの権利条約」批准から28年を経て制定される見込みが高くなってきた。3月10日には自民党が「子どもの権利条約」にのっとった「こども基本法」の骨子素案を連立与党である公明党に提示している。
「こども基本法は理念法であり、法律の中でも上位にランクされますから、すべての子ども政策にまたがり横串を刺す機能を持ちます。法律ができれば官僚も自治体も従わざるをえませんし、何か問題があったとき、『子どもにやさしくないから』というような情緒的な表現ではなく、法的な根拠に基づく批判や改善ができるようになります」と、末冨氏も基本法の制定が現実味を帯びてきたことを高く評価する。