共産主義と自由尊重 両立する制度設計を提案
評者/北海道大学大学院教授 橋本 努

[Profile]Yanis Varoufakis 1961年生まれ。経済学部教授として英国、豪州、ギリシャ、米国で教鞭をとる。2015年、ギリシャ経済危機時に財務相に就任。緊縮財政策を迫るEUに対して大幅な債務減免を主張。世界に向けて民主主義の再生を語り続けている。著書に『わたしたちを救う経済学』など。
資本主義を超える理想の社会を、SF小説のタッチで描いた異色の経済思想書である。

私たちが今の社会に不満を持っているとして、代替しうる「よき社会」はどんなものだろうか。最新のAIにデータを打ち込めば、求めるべき社会の理想を知ることができるかもしれない。コンピュータは私たちの不満と願望に応じて、理想の社会を提案してくれる。著者はそんな着想から、反体制派の登場人物たちそれぞれに、ふさわしい理想社会を示していく。
例えば、完全な市場経済の下で、企業民主主義を実現するという理想。従業員は入社とともに、1人1株を所有し、株主たる従業員たちが民主的に意思決定をする。株は転売できず、資本調達はもっぱら従業員の資産に依拠する。基本給は一定で、フラットな組織である。ボーナスは社員が相互に採点しあって民主的に決める。法人税は利益の5%。一方、市民は所得税も消費税も支払う必要がない。このような仕組みにすれば、資本家に支配されない経済社会になるだろう、と著者は提案する。
この記事は有料会員限定です。
東洋経済オンライン有料会員にご登録いただくと、有料会員限定記事を含むすべての記事と、『週刊東洋経済』電子版をお読みいただけます。
- 有料会員限定記事を含むすべての記事が読める
- 『週刊東洋経済』電子版の最新号とバックナンバーが読み放題
- 有料会員限定メールマガジンをお届け
- 各種イベント・セミナーご優待